★君色の光2 | ナノ 「どこへ行くつもりだい」
「わ……っ!」


担がれたまま連れて来られたのはどうやら寝室のようだ。
それまで和を基調とした内装だったが、大人の姿をした雲雀がようやく降ろしてくれた先は柔らかく弾力のあるベッド。
障子や畳はなくホテルのようなすっきりとした内装の部屋だ。
ようやく解放されたことにほっとしたのも束の間、千紘のいるベッドへと雲雀が乗り上げてきた。
大人になって身長の伸びた雲雀とであっても余裕で2人で寝ることができるほどにベッドは広い。それに今まで触れた中でも最上級に手触りが良い。
とはいうものの、相手がいくら雲雀本人であろうとも大人である今の姿に馴染みはない。さすがにいきなり同衾は遠慮したい。
雲雀が寝るつもりなのであれば自分は下りようとベッド端へと移動しようとした千紘だが、大きな手に足首を掴まれ、ずるりと引き寄せられる。
滑らかなシーツも手伝って抵抗もなく捕えた小さな身体を自身とベッドの間に閉じ込める。馬乗りになり見下ろした先で千紘があどけない顔で見上げてくる。


「な、なんですか? 寝るんじゃないんですか」
「僕は寝ないよ。君は寝たいなら好きにしていいけど」
「でもここ雲雀のベッドなんじゃ……」
「違うよ。特に誰かの部屋ってわけじゃない」
「えっ、それって……わ、なに…!?」
「だから寝るなら気にせず寝るといい」
「へ……、んん、」
「僕は僕で好きにする」


僅かに上気した丸みを帯びた頬をひと撫でするとさらに赤みが強くなる。
射止めた先の柔らかな色の瞳は潤みを持ってこちらを見つめてくる。幼いながらもしっかりと色を含む表情に静かに口端が吊り上がる。
会話を続けたまま制服の裾から手を侵入させ、アンダーシャツの下の脇腹に触れればひくりと薄いそこが震える。擽ったかったのか逃げるように身を捩る千紘を許す筈もなく、触れたままの指先をさらに奥へと滑らせる。
上がりかけた声を喉で押さえ込んだ千紘はようやく雲雀の手首を捕まえる。それ以上の侵入を拒むように力を込めているようだが何の妨げにもならない。


「ま、待って! 何しようとして、」
「好きにすると言ったはずだよ。邪魔しないで」
「するよ! いや好きにしてもらっていいけどこの手はおかし、っん、」
「…ああ、この時の君はまだだったっけ」
「ま、まだ……? やだ、こしょばいから、ぅ、んっ…」
「へえ、いいね」


抵抗を物ともせず素肌を撫でる雲雀の指に翻弄される千紘は片手の甲を口に当てて上擦る声をなんとか遮る。
それでも小さく漏れる、ん、という鼻に掛かった声と乱れだした呼吸に煽られる。
まだ刺激を拾いやすい部位には触れていない。千紘自身も性的な刺激というよりは擽ったがっているだけだというのに、だ。
筋肉も脂肪も足りない腹を撫で、そのまま指を進めて鎖骨の窪みをゆっくりとなぞる。薄い皮膚の下の華奢な骨の感触を確かめていると、ふるりと千紘が震える。
やめて、と途切れ途切れになりつつも伝えてくる千紘をあやすように額にキスをしながら手早くベルトを緩めにかかる。
額に触れた感触に気を取られ動きを止めた千紘だが、カチャリという金属音にぎょっとした表情を浮かべる。


「…っは!? え、え、まって、ほんとに何……?」
「ここまで来てわからない?」
「ひ、……っ、や、やだよ、っあ、」


わざと耳に向けて声を吹き込めばついに小さく喘いだ千紘にさらに気分が高揚する。
基本的にどこもかしこも弱いといえばそれまでだが、とりわけ耳への刺激を過敏に拾ってしまう千紘に抗う術はない。
確実に色を纏った反応をした千紘だが、頼りなく揺らいだ瞳には幼さが濃く滲む。無防備に刺激に晒される千紘の睫毛が震えるのを見留めて、とある感情が湧き上がる。


「……随分と懐かしいな。加護欲ってやつか」
「…は……?」
「ねえ、どこまでならいいの?」
「ど、どこまでってなにが、」
「本当はここ、使おうと思ってたんだけど」
「ヒッ!?」


耳への刺激に翻弄されている間に制服のボタンも全て外し、アンダーシャツも侵入した雲雀の手によって鳩尾あたりまで捲れている。
しどけなく肌を暴かれて赤い顔で吐息を漏らす千紘に正直かなり食指が動く。しかし慣れない刺激に戸惑う姿はあまりにも子どもだ。
胸元に潜り込ませた手とは逆の手でスラックスの上から奥まった部分を撫でればびくりと小さな身体に怯えが走る。
明確に恐怖を乗せた瞳に指を止める。別にこの子どもを怯えさせたい訳でも虐めたい訳でもない。生憎とそういった嗜好は持ち合わせていない。
労わるように瞳に唇を落とせばそれにすら身を竦ませる千紘に自然と口元が緩む。
端正な顔を艶やかに綻ばせた雲雀に千紘からもふわりと強張りが解ける。


「君、本当に僕の顔好きだね」
「だ、誰だって見惚れると思う……美人……」
「僕自身の楽しみでもあるから今回はこれ以上はやめておくよ」
「?」
「そのかわりキスくらいはいいよね」
「えっ!? キ、キス……!?」
「これは初めてじゃないだろ」


素直に雲雀に見惚れる千紘に軽く微笑むと、鼻先が触れそうな位置までぐっと顔を近付けて迫る。
美しい顔が眼前に迫ったことと言われた内容に千紘の頬がじわりと紅潮する。
下手に逃げようと身体を動かせば唇が触れてしまいそうな距離のため千紘は大人しくしているより他はない。


「は、はじめてではない、けど」
「キスを許してくれるならそれ以上のことは思い留まってあげるよ」
「な…………」
「できないなら僕も手を出さないって保障はできないな」
「……なんで俺なの? 雲雀ならもっとたくさん、」
「君だからだよ。君は僕の『恋人』だろ」
「……! そ、それは、そう、だけど…!」
「じゃあいいよね」


でも、と返そうとした千紘の言葉を唇ごと飲み込む。
驚いて大きく目を見開いた千紘の無防備な口腔に侵入すれば舌が震えたのがわかる。
反射的に身体を押し返そうとした千紘の手をシーツへと縫い付け、狭くて熱い空間をさらに貪る。歯列をなぞり逃げ込んだ舌を絡め、上顎を擽るように刺激すればその度に千紘は律儀に身体を跳ねさせる。
逃れる術が見つけられず、与えられる刺激で上がるくぐもった嬌声を雲雀に食われるしかない。
確かに初めてではない。中学生の雲雀にこの種類のキスをされたことはある。
あの時だって緊張と混乱と、身体を駆け巡る何とも言えない感覚におかしくなってしまうかと思った。でもいま与えられている刺激はさらに強烈で、息継ぎはしているはずなのに頭がくらくらする。
頭の先から爪先まで全ての神経を逆撫でされているかのようにぞくぞくとした感覚が止まらず、こちらを押さえつけている雲雀の手に必死でしがみつく。
ベッドに寝ている筈なのに何かに掴まっていないと落ちてしまいそうだ。
呼吸の為に解放してもらう度に取り入れている筈の酸素はすぐに無くなってしまうし、口を閉じる余裕もない。
どうなっているのかもう分からない。
暫く蹂躙してようやく離れた雲雀が満足そうにこちらの口端を拭ったことで、唾液が流れてしまっていたことや手が解放されたことに気が付く。
あんなに必死で握っていた筈なのにいつの間にか脱力してしまっていたらしい。
どこにも力が入らないし頭も回らない。ただただ荒い呼吸を繰り返すことしかできない。


「かわいいね」
「…はあっ、は、…な、にが……、」
「君が望まない限りはこれ以上手を出さないけど」
「……? はっ、はぁ、も、おわり……?」
「欲しくなったらいつでも言うんだよ、千紘」


放心状態で雲雀を見上げる千紘は殆ど雲雀の言葉を理解できていないだろう。
曖昧な表情でこくりと従順に頷く千紘を騙して同意を取り、最後まで食べてしまうことは実に容易い。キスだけでこんなに反応するこの千紘にもっと強烈な刺激を与えてやったらどうなるのだろうかと思う気持ちは正直ある。
しかし千紘の為にも自分の為にもこのタイミングでやるべきではないことも理解はしている。
まあ雲雀恭弥を『恋人』として認識しているというだけでも僥倖だ。それを理解していない千紘が来ていたとすれば思い留まってやることはできなかっただろう。
乱れた髪を梳いてやっているとそのまま静かに意識を手放した千紘の幼い顔を見て口角が上がる。
さて、”大人の”千紘はどうやって過去の自分に関わるだろうか。
戻ってきたら問い質してやろう。ついでに”子どもの”千紘についてもじっくり聞かせてやろう。



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2021.10.02 百
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