★君色の光2 | ナノ 「………はい?」
「やあ、待ってたよ」


突如衝撃と共に視界を真っ白な煙に覆われ、それが晴れたと思えば目の前には漆黒の麗人。
いや、何事?
切れ長の目元を細めてこちらを見据える男性の美しさに混乱を忘れてしばし見惚れる。どう見ても成人男性で女性的でもないのだが、とにかく顔立ちが最高に美しい。永遠に見ていられる。
灰色の綺麗な瞳と凛とした雰囲気にちらりと既視感を覚えるが、彼は自分とほぼ同い年でまだ大人にはなっていない。
そこまで考えてようやく至近距離で見つめ合っていたことに気が付き、慌てて上体を反らせる。同時に後ろに引こうとした両足が動かず、バランスを崩した千紘の背中を男性の腕が支える。
どうやら目の前の男性に抱え上げられているらしいことを理解した千紘はさっと顔を青くする。両足が動かなかったのも、この男性の腕にしっかりと抱え込まれているからのようだ。
そういえば普段に比べて随分と視界が高い。把握してしまうと見知らぬ男性に抱き上げられているという状況は余りに怖い。
倒れかけた際に咄嗟に男性の着物を握ってしまった掌にじわりと嫌な汗が滲む。
緊張と不安で身体を強張らせた千紘は意を決して口を開く。なんとかしなければ。


「…………あ、あの…すみません、」
「なんだい?」
「ええと、その……おれ、なんで、あなたにだっこされてるんでしょうか…」
「さあ、どうしてだろうね」
「……さ、差し支えなければ降ろしてもらいたいんですが」
「僕からも聞くけど、どうしてそんなに怯えてるんだい?」
「……どうしてって俺、あなたと初対面だと思っ、ぅ、わ…っ!」
「僕がわからない?」


口元を楽しげに緩めたまま、ことりと小首を傾げる仕草に再び既視感に襲われる。でもおかしい。
困惑しながらもおそるおそる男性の肩を押し返すが微動だにしない。それどころか背中に回されていた腕でさらに引き寄せられてしまった。
ふわりと香る匂いも耳に届く声も話し方も、全部そっくりだ。でも触れている肩の感触や大きな掌は千紘の知るものではない。
じっとこちらの言葉を待つ男性に、千紘は期待を込めてそっと問いかける。


「……雲雀のお兄さんですか?」
「言うと思った。違うよ」
「ま、まさかお父さんですか!? えっ、若……」
「違う。本気で言ってるの、千紘」
「あれ、俺の名前……なんで」
「相変わらず抜けてるね。僕が雲雀恭弥だよ」
「…………? 冗談ですよね?」
「むしろどうしたら僕以外に見えるの?」


ぽかん、と幼い顔でこちらを見つめる千紘に雲雀はこつりと額を合わせる。驚いて見開かれた柔らかな色の瞳は今と変わらない。
びしりと全身を緊張させた千紘の初々しい反応につい笑みが深くなる。抱えた身体は手に馴染んだいつものそれに比べて随分と小さいし頼りない。あれでも一応は成長していたということか。
薄い背中に浮き出た肩甲骨のあたりをゆっくりと撫で、形を確かめるように窪みに指を掛ける。たったそれだけで目の前の子どもはふるりと身体を震わせ、息を詰める。


「……っ、」
「信じられない?」
「…だって、雲雀は俺と同じ中学生のはずです。あなたみたいに大人じゃない」
「君からすればここは10年先の世界だよ。だから僕も大人になってる」
「……は…?」
「入れ替わるところ見たことあるだろ」
「え……、あっ! もしかして大人ランボさんが来たときみたいな…?」
「そう。同じ原理で君が未来へ飛ばされてきたんだよ」
「えええ……じゃ、じゃあほんとに大人の雲雀なの…?」
「そうだよ」


まだまだ半信半疑の千紘だが、ランボの持つ10年バズーカの存在は知っている。
もしそれを撃ち込まれたのだとすれば最初に感じた衝撃も、あまりにも雲雀と酷似したこの男性の正体も説明がつく。あり得ない体験だとは思うが、あり得なさ過ぎて逆に説得力がある。この世界においてあり得ないは存在しないと学習済みだ。
状況が理解できると途端に気分が高揚してくる。中学生の雲雀もそれは美人だが、幼さの抜けた顔立ちは大人の色気すら感じる。すらりと細身であるのは変わらないが、しっかりと出来上がった身体も大人の魅力満載だ。控えめに言って最高である。


「めちゃくちゃ美しいじゃん……!」
「昔から君はそればっかりだね」
「いや、そんな美しくていいの……? あの、他のみんなもいますか?」
「いるにはいるよ」
「わ、会いたい…! 近くにいますか?」
「そうだね。でも君は先にこっち」
「へ……?」


雲雀だと認識してようやく怯えを取り払った千紘はわくわくと瞳を輝かせる。
元から美しかった雲雀が完璧な成長を遂げているのである、総じて顔の良い友人たちも素晴らしい仕上がりになっているに違いない。絶対に会いたい。
そう意気込む千紘の様子に雲雀は瞳を細める。この子こんなにかわいかったっけ。
もちろんこの世界にいる大人の千紘がかわいくないということではないが、大人の目線から見る中学生はこんなにもあどけなく無邪気なものだったとは。
軽い身体を抱き上げたまま部屋の奥へと歩みを進めると、千紘はきょとんと不思議そうに首を傾げる。
それに唇を吊り上げて応えると千紘は素直に頬を赤く染める。じわりと雲雀の気分も高揚する。
こんな良い機会をそうそう簡単に逃してやるつもりはない。



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2020.11.03 百
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