「……ねえ、ミコトおねえちゃん。」

「…なに?」

「あの……ナギおにいちゃんと、ナミおねえちゃん…どこにいるか知ってる?」

外側の大陸…マグダレンの森の、黒魔道士の村。

ボクは朝から姿が見えない二人について、読書中だったミコトおねえちゃんに聞いてみた。

「……知らないわ。そういえば見てないわね。」

ぶ厚い本から目を離して少し考えたあと、首を振るおねえちゃん。

「あ、あの…村中、探したつもりなんだけど…いなくって…それで…。」

「…他の子には聞いた?」

「うん、何人か…。でもわからないって…。」

「……そう……。」

また少し考えてからパタリと本を閉じると、おねえちゃんはジタンにそっくりな目でボクを見た。

「…こういう時はどうするべきなの?」

「……えっ?」

「テラで行方不明になるジェノムはいなかった…だから私にはわからないわ。」

「…あ、そっか…。」

なんて言うか、ミコトおねえちゃんには288号さんと同じで物知りなイメージがあったから…思ってもなかった答えにびっくりする。言われてみればたしかにそうなんだけど…。

「えと……さがす、かな?もしどこかであぶない目にあってたら大変だから…。」

「…そう。じゃあ探しましょう。」

「う、うん。」

立ち上がってスタスタと歩き出すおねえちゃん。こういう行動の早さはジタンに似てる気がするなぁ…。

転びそうになりながらも出来るだけ駆け足でついて行って外に出る。そしたらおねえちゃんが急にぴったりと足を止めたから、ボクは前のめりになってしまった。

「どっ…どうしたの?」

「…下がって…何か来る。」

ボクを右手で制止して、真っ青な空を見上げるおねえちゃん。つられて見上げた空からは…白っぽい何かが降って来た。

「わあぁっ!?」

おねえちゃんのお陰でぶつかりはしなかったけど、巻き起こった風と土ぼこりに思わず叫んでしまう。

「…け、けほっ………と…鳥…?」

少ししてから姿が見えたそれは、大きな…鳥の形をしたものだった。大きさからして普通の鳥じゃない…まさかモンスター!?…とりあえず、近くに誰もいなくて良かった…。

「…違う…これは使い魔…誰かの使役だわ。」

「つ…使い魔?」

普段通りに冷静に話しながら、使い魔?に近付くおねえちゃん。敵意は感じないけど…大丈夫なの…!?

「あなたの主人は誰?何の用事?」

白かったはずなのに土で茶色くなって…しかも伸びちゃってた鳥は、おねえちゃんの言葉にぴくりと反応してピカッて光った。まぶしくて反射的に目をつぶる。

「…えっ!?」

そろりと目を開けると、なんと目の前にはボクと同じくらいの女の子がいた。おかっぱみたいな髪型の真っ白な髪に、ごく薄い灰色の瞳…ミノンおねえちゃんが着てたのみたいな雰囲気の白い服は、さっきの鳥と同じように土ぼこりまみれだ。

「も…申し訳御座いませんっ、御怪我は!?」

自分がよごれちゃってるのも気にしないで、一目散にかけ寄って来る女の子。今にも泣きそうな顔だ。

「ないわ。……あなた…誰の使い魔?」

「…はっ!」

女の子は手早く顔のよごれを拭うと、ピシッと姿勢を正した。

「私(わたくし)はミノン様の式神…使い魔で、ユキと申します。」

「え…ミノンおねえちゃんのっ!?」

「はい。」

「…ミノン…って確か…。」

「こないだまでボク達と一緒に旅してた、黒い髪の…白い服着てたおねえちゃんだよ。いろんな魔法が使えるんだ。」

確かにミノンおねえちゃんだったらこんなことが出来てもおかしくないかも…すごいなあ、まるでお話できる召喚獣みたい。

「あ、では貴方がビビ様ですね?…貴女はもしやミコト様でいらっしゃいますか?」

「…ええ。」

「やはり!…主より命を受け、貴女方に主の御言葉を御伝えすべく飛んで参りました。鳥型のくせに着地に失敗する様な不束者ですが…伝言能力だけならば何にも負けぬ自信が御座いますので、どうか御安心の程を。」

あれ、失敗してたんだ…もしかしてちょっとおっちょこちょいなのかなぁ。なんだかちょっぴり親近感。

「…わかったわ、聞きましょう…どうぞ話して。」

「はい。…然しながら…主より事は内密に、荒立てぬ様にと厳命を受けております。付きましては、出来れば御人払いを…。」

はっとして見回せば、ボクらの周りにはみんなが遠巻きに集まっていた。急にあんな風も吹いたしびっくりして当然だよね…。

「……みんな!この方は、遠くからのお客様よ。」

「お客さま?」
「お客さんだ!」
「…客とは何だ?」
「え?えっとね…。」

「心配いらないから、仕事に戻って。わかった?」

「はーい!」
「しごとしごとー!」
「ねえねえ、お客さま、おもてなしはいるかな?」
「おもてなし…とは何だ?」

ミコトおねえちゃんの言葉に素直に従って、口々にしゃべりながら戻って行くみんな。心配なのかまだ遠くからちらちらと見てる子もいるけど…きっと話し声は聞こえないと思う。

「…さあ、中へ。」

すこし申し訳ない気持ちになりながら、ボクはおねえちゃんに続いて家に入った。



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