王都アレクサンドリア。
城に報告に上がるというリア様達と別れた私達は、二人でこの街を巡る事になった。人々の慰問にあたれという指示を受けたからだ。
2週間振りに戻った街は、とても久し振りに訪れた様に感じた。少しずつ歩みを進めながら地脈を正し、人々の心を鎮めるべく癒しの力を届けていく。
…今までゆっくりとこの街を歩いたのは、ただ一度…記憶を失くした時だけだ。こんな風に歩く事になろうとは、あの時は夢にも思わなかった。
「………。」
たとえサラマンダー様と一緒であっても拭いきれない恐怖──不特定多数の人と接する事への不安を隠すべく、またフードを目深に被り直す。
人目…強いては人を避けて歩く癖に自分で辟易しながら、私は人々の声を聞いて行った。
(…鎮魂歌……増え…た?)
異変に気が付いたのは、流れる旋律の数が増したことに勘づいた時だった。重く荘厳な響きは以前に増して強く訴え掛けて来る様だ。
(………。)
旅立つ魂達への安息の祈りを込めて手を握り合わせ、目を瞑る。ざわつく暗闇の中…私はどこか違和感を感じた。
「…サラマンダー様。」
「……何だ?」
「…何か……おかしくないですか?」
辺りを見渡すが、目に見える怪異はない。ただ…違和感だけは今も確かだ。
「……何が?」
「…気が…変な感じ…。」
「……俺にはわからん。」
「………。」
目を閉じてみるが、元から地脈が乱れているせいか…いくら集中しても正確に事態を把握する事は困難だった。しかし気は重く、纏わりついてくるかの様だ。
「…何か…歪んでいるというか…滞っているというか…。」
「…悪い感じがするのか?」
「……はい…でも、原因が…全くわからなくて…。」
「………。」
良くない気配はするのに、理由がわからない……まるで目隠しをされたかの様な不安に襲われる。
「…わざわざ城に呼びつけられたんだ…何か怪異があるなら、リアが聞いて帰って来るだろう。……んな顔すんな。」
頭にぽん、ぽん、と優しい感触。自然と強張った表情が安らぐ。
「……はい。……戻りましょうか。」
顔を上げてもう一度フードを引っ張り、私は少しでもこの状況を改善すべく地脈を正しにかかった。
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