息が詰まる授業が終わり、開放感溢れる校外へと飛び出した。
 同じように出て行く生徒たちに紛れて彩耶は帰宅するために歩いていた。
 同じ方面に帰る人も無く、一人歩いていれば、周囲に対する警戒が薄れていたのか、唐突に後ろから激突された。
 その瞬間は、一体何が起きたのか全く理解ができず、はね飛ばされて転倒したことだけが彩耶にとっては認識できたことだった。


「ぃ…ててて……」

 見ていなかった方の隣側からそんな声が聞こえたことに彩耶はそちらを見た。
 金色の髪の毛に茶色い瞳、見覚えのある顔をした人がぶつけたと思われる場所を押さえてうずくまっている。 
 極めつけはファーの付いた上着。
 ここまで特徴が揃っていれば、これはあの人以外の何者でも無いだろう。

 ――跳馬ディーノ。

 キャバッローネの10代目ボスであり、究極のボス体質である彼。
 彼の向こう側に 自転車 が転がっているのが見え、周りに誰もいないことから、何が起きたのかは明白であろう。
 彼にとってはいつものことであるドジを踏んだということが。

「だ、大丈夫か!?」
「ぇ、ぁ、はい」

 はね飛ばされたのは事実だが、彩耶に怪我は一つも無かった。
 上手く受け身が取れたのだろう。

「それは良かった! バランスを崩してしまって……悪かった」
「いえ、仕方ないですよ」

 そう返事をしながら、互いに立ち上がっ――ディーノは再びへたり込むように座り込んだ。

「あぁ、足を捻ったんですね」

 痛みに顔を歪めて硬直しているディーノに、彩耶はそう判断する。

「どちらに向かおうとしてたんですか?」

 お近くなら、自転車と荷物は私が運びますが……

「無理せずにタクシーでも呼んだ方が良いですよ」
「いや! これはオレが……っ!」

 自転車を支えに立ち上がるも、痛みに顔を歪めている。
 そんなディーノを無視して帰れる程冷血では無い彩耶は、送っていくことを決めるのだった。


 ――仕方がない、見捨てられないもの。



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