重い体を引きずるようにして登校する。
――寝て起きたら元の世界に戻っていたらいいのに……
そんな甘い考えはあっさりと裏切られ、迎えに来た美佳と共に登校する。
彼女は元の世界ではいなかった親友のようだから、彼女を見た時点で確定である。
彼女には心配をかけないように、それでもどこか落ち込んだまま『並盛高校2年B組』に向かう。
今日も元気に存在するボンゴレ勢に溜息を漏らしかけ、鞄から教科書を取り出した。
「無理するんじゃないわよ!」
心配した美佳の声に頷いて笑い返し、授業へと意識を向けていった。
「上田さん」
「……ぇ?」
「一緒に昼食食べない?」
四時間目が終わり、今からお昼休憩。
昼食を取るためにお弁当を開こうかと思った時にかけられた声。
見知らぬ少女。
これは誰?
けれど、別に一人で食べるつもりだったから、それは構わないか、と頷く。
「いい、ですけど……」
「それじゃ、裏庭に行きましょ」
綺麗なのよ〜! と手を引くように立ち上がらせてくる勢いが激しい彼女に戸惑いながら付いていく。
テンションが高い。
普通に生活をしていたらあまり関わりたくないタイプじゃないかと思われる程に高いテンションの少女。
それでも、そのテンションに引きずられるように、あまり深く物事を考えられなくなる。
その勢いに負けて歩む彩耶は、この少女の名前は何なのだろう? と呼びかけなければいけない事態になったらどうしよう、と悩み始めるのだった。
「ここが最近の私のお気に入りスポットなの」
緑が多いっていいわよね、と言ってくる彼女に彩耶はコクリと頷く。
周りに一人もいなく、校舎の喧騒は遙か遠く。
静かな空気に包まれた場所は、落ち着きをくれる。
「私は紗奈。河原紗奈だよ、彩耶ちゃん」
ちゃんと呼ばれたことに目を見開くが、名前を名乗ってくれたということは、クラスメイトであっても友達と呼べる程でも無かったのだろう。
でも、それなら何でこんな場所に連れてきたのだろう、と疑問しか浮かばない。
もしかしたら、昨日具合が悪そうだったから緑のある場所で森林浴でも、と思ったのだろうか?
そんなわけないか、自己完結して紗奈を見返した。
「紗奈、さん……私に何か御用が…?」
「ん、あるって言えばあるかな?」
ふふ、と笑った彼女は、勿体付けるように一呼吸置いてから口を開いた。
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