「帰るわよー、彩耶!」
終礼を終えたと思われる美佳が保健室に現れた。
少しうとうとはして、それでも元の世界に戻っていないことに絶望したかのような暗い表情をしたままの彩耶は、言われるがままにベッドから出た。
「ちゃんと送ってあげるのよ」
「分かってるわよ、先生! これも保健委員の務め、ですよね!」
「えぇ、頑張ってね。上田さんはお大事にね」
「はい、ありがとうございます」
お邪魔しました、と彩耶は頭を下げて、鞄を代わりに持ってくれていた美佳について出て行った。
悪いから、と鞄を受け取ったが、代わりに彩耶の靴を出したり、扉を開けたりして家まで美佳は送っていった。
「お帰りなさい、彩耶」
玄関に顔を出して迎えてくれた母親の姿が、自分の良く知っている姿でホッとした彩耶は靴を脱いで家に上がった。
「美佳ちゃん、どうしたの? わざわざ家にまで……」
「今日、授業中に彩耶の顔色がとても悪くなって、体調が悪そうだったので、送ってきました」
「あら、大丈夫なの、彩耶」
彩耶の額に手を伸ばし熱を測った母は、首を捻っている。
「熱は無いようだけど、寝ていることにする?」
「うん、そうする。――美佳、家まで送ってくれてありがとう」
「いいわよ、これくらい」
笑って美佳は軽く手を振った。
「ゆっくり休んで早く治して。また明日ね!」
休んで、と帰っていく美佳を見送った彩耶は母親に見守られて自室へと入った。
自宅周りの風景はどこか同じでありながら、何かが違うという景色で、自宅は元の家と全く一緒だった。
出迎えてくれた母親が自分の母親そのものであり、彩耶は少し混乱した。
――何で私はこんな場所にいるのだろう?
自分の良く知る自室の中、枕に顔を埋めた。
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