「……彩耶、彩耶!!」
「うわっ!」

 物思いに耽っていた彩耶は、悲鳴染みた叫びを上げて飛び起きた。
 伏せていた状態で少し零した涙は全て制服の袖に吸い込まれ、痕跡はパッと見分からない。
 早々バレないだろう、と一つ安心の吐息を漏らした彩耶は声をかけてきた少女を見上げた。

 同年代の少女。
 制服は今自分が着ている物と同じ物。制服のデザインこそ元々着ていた制服と一緒だが、一部色が違うことは、先程教室内を見回していた時に気付いている。
 先程見回した中にいたクラスメイトであることは間違いない。
 名前を知っていたのだから、多分友達。

「何?」
「机に伏してどうしたの? 具合悪いの?」
「……ん……なんか、ちょっと……」

 現在いる場所が、自分の元の世界とは違うのではないか、ということを考えるだけで具合が悪くなるのは間違いない。
 今、机に伏せていた理由が違うにしても、それは間違いないことである。

「無理しちゃダメよ! 保健室行きましょう」

 少女は彩耶の腕を引き、立ち上がらせ、保健室へと誘導する。
 それにノロノロと付いていきながら、一瞬クラス内に走らせた視界の端に、沢田綱吉と、その友達が笑い合っているのが見えた。

 ――やっぱりいる。

 チラリと彩耶は瞳を上げ、教室の番号を確認すれば、2年B組。
 少女に引き摺られるようにしながら歩きながら、ここはどこなのだろう? と彩耶はもう一度心の中で呟いた。



「熱は無いようね……少しここで休んでいくといいわ」

 サボリでは無いようだし、顔色が悪いのは確かだから、と保険医が言う。
 男性ではなく女性の保険医の姿に、彩耶はホッと息を吐き、少し捲ってくれたベッドへと大人しく収まった。

「鈴木さん、代わりに利用記録書いておいてもらっていいかしら?」
「はい!」

 保険委員の鈴木美佳にお任せ下さい! と敬礼して見せた少女に、この少女の名前は美佳か、と彩耶は覚える。
 椅子に座り記録を書いている美佳を視界の端に収めながら彩耶は何で学校の授業中にうたた寝していただけで場所が移動してるのだろう、と考え始めた。

「彩耶、放課後までに具合が良くならなかったら鞄持ってくるから、ゆっくり休みなさいよ」
「……ありがと」

 心配してくれていることがありありと分かる美佳の姿に、彩耶はうっすらと笑みを返した。
 カーテンをしっかりと閉められ、保険医は少しだけ職員室に行ってくる、と言い残して出て行った。
 保健室内には彩耶一人だけが残され、かなり前に鳴ったチャイムの後から授業中のために辺りは静まり返っていた。

 ゆっくりと状況を把握し直すために考えるのにちょうど良い時間が与えられたなぁ、と天井を睨んで彩耶は考え込み始めた。

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