彼女はその日戻ってこなかった。

 そのまま放課後まで保健室で休み、保険委員で彼女の友達の鈴木美佳が家まで送っていったらしい。
 翌日である今日は普通に出て来ていた彼女に声をかけたいと思う。
 けれど、何て言って声をかけよう?

 貴女は異世界トリップしましたよね?

 なんていう直球勝負かけるのって、違った場合危ないし、だからと言って、いい言い回しも……

「上田さん」
「……ぇ?」
「一緒に昼食食べない?」
「いい、ですけど……」

 戸惑いばかりが伝わってくるが、それでも拒否はしないようであれば、さっさと連れて行こう。
 人気の無い、裏庭へ。


 そこは、最近の私のお気に入りスポットだ。
 不良たちがたむろするには少し風紀委員からの眼がありすぎる場所で。
 だけど、何かあるわけでも無いし、少し玄関から離れているせいもあってここに来にくいからと生徒も少ない。
 でも、じゅっ……げほごほっ。何年も若返ってしまっている現状、若さについていけないよ、おばちゃんは。
 そんな気持ちになることが多いので、現実から逃げるのに利用しているのだ。

「んっと……」
「あぁ、私は紗奈。河原紗奈だよ、彩耶ちゃん」

 突然ちゃん付けで呼んだら驚いたらしい。
 いや、でも、私より……年も若いんだし、ちゃん付けでいいだろう。

「紗奈、さん……私に何か御用が…?」
「ん、あるって言えばあるかな?」

 とりあえず、軽いジャブから行ってみるか。

「彩耶ちゃんって、腐女子?」
「えぇ!!?」

 おぉ、いい反応。
 そして、これはビンゴだろうね。

「異世界トリップとか知ってる?」
「ぇ? ぇ? な、何でいきなり……」
「私が腐女子だから、話せる人いないかなぁ? と思ったのが一つと、彩耶ちゃんの様子がちょっと、ね」

 前日までの様子と、すっごい違ったからねぇ……

「ふ、腐女子なのは否定しないけれど……私は全然おかしくない」
「やっぱりね!」
「何でそこで異世界トリップっていう単語を出すの? 今関係ないよね」

 あぁ、誤魔化そうとしてる?

「私がやってるサイトにそういう話があるから、と……あとは」


 私がそうだから、かな。


 そう、風に紛れる程に小さな声で、でも彩耶ちゃんには届くように言った。
 その言葉に眼を見開き、驚きを全身で表している彩耶ちゃんが少し落ち着くまで待った。



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