「紗奈〜、起きないと遅刻するわよ〜!」
「ぅみゅぅ〜……」

 かけられた声に、もぞもぞとベッド上を這いずる。

「早く起きないと学校遅刻しちゃうわよ!」

 えいやっ! とばかりに掛け布団を剥ぎ取られ、体を起こした。
 ……ん? 今、変な単語無かった?

「ほら、さっさと制服に着替える!」

 言われた言葉がようやく頭に届いた。
 ちょっと待ってくれ、もうすでに卒業して何年だと思ってるのだ?
 まぁ、遅刻するわよ〜! と起こされることが現在でも存在するのだから、成長してないにも程があるかもしれないが、それでも卒業して彼此……

 いや、止めておこう。
 あまり深く考えると、年齢に心臓打ち抜かれるからな。

 ガサゴソとベッドから降りようとすれば、通勤用の私服がかかってるはずの場所には一着の制服。

 本気かよ……

 本当にこの制服を今着なきゃいけないのか? と葛藤しながら、仕方ないので袖を通す。
 その最中にブレザーから滑り落ちた生徒手帳を発見して身分証明部分をペラリと捲った。


 並盛高校2年B組 河原紗奈


 そんな言葉を見てしまった直後、私の脳内に浮かんだのは、並盛なんて存在しねぇだろ! という突っ込みだけであった。

 ふらふらと視線を彷徨わせながら、自分がいつも入れていた本棚の場所を見るが、そこには別の漫画。
 それなら、と本棚全てを引っ繰り返す勢いで確認するが、求めていた本だけが存在しない。


 異世界トリップかよ……


 自分がやっている二次創作サイトも確認すべきか、と高校生当時には持っていなかったパソコンへと視線をやり、そちらに近付こうと――

「紗奈! 遅刻するって言ってるでしょ……あら、着替え終わってるんじゃない」

 バタンッと開けられた部屋の扉にビクリと反応しながら振り返れば、母親に手首を掴まれた。

「さっさと行きなさい。遅刻するでしょ」

 玄関先に強制連行され、さっさと行けとばかりに鞄を持たされ、家から追い出された。


 私、並盛高校の場所なんか、知らないんですけど……

 はぁ、と溜息を吐くことしかできなかった。



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