三森あげは、淑女を目指す!【紅蓮のアゲハって呼ぶんじゃねぇ】 | ナノ



清く正しく美しく! 三森あげはを夜露死苦!
毒親ズの遭遇、混ぜるな危険!


 今日は嗣臣さんにデートへ誘われて、映画を観に行った。最近流行りの漫画が原作の映画だったけど、原作を知らなかったのに結構面白く見られた。兄貴が漫画を持っていた気がするから家に帰ったら貸してもらおうかな。
 映画の上映後に少しばかりお手洗いに行っていた私が戻ってくると、ロビーで嗣臣さんがマネキンのように棒立ちしていた。

「…嫌な偶然ね」
「本当にな…」
「……」

 嗣臣さんの横には、嗣臣さんの実母と知らない男性の姿。そしてその反対側には駄目親父と義母の姿があったのだ。……お誘い合わせでもしたの? って聞きたくなった。何この嫌な偶然。

 実の両親と、その再婚相手に囲まれた嗣臣さんは無の境地に至っているように見えた。
 離婚した、再婚したとはいえ、彼の両親である。離れて暮らすようになったとしても、やっぱり心のどこかで引っかかっているのだろう。…本人はあまり弱みを見せてくれないから本当のところはわかんないけど。
 離婚するだいぶ前…嗣臣さんが幼い頃から仲が悪かったらしい実の両親。離婚して赤の他人になったとはいえ、色々愛憎渦巻くのだろうか……

 彼らはしばしお互いを睨みつけ合っていた。一緒にいた再婚相手たちも少しばかり気まずそうな顔をしている。…これに嗣臣さんを間に挟む必要はないと思うんだが…大人だけでどうぞご自由にって感じである。

「今まで子どものことを放置していたくせに、いざ親権を奪われたら息子にすり寄るってのか?」
「…あなたがそれを言うの? 仕事と不倫で家を留守がちだったくせに」
「それはお前もだろうが」

 うわぁ、泥試合じゃないですか…どっちもどっち過ぎてどちらも庇えない。

「その人、浮気するわよ。私が妊娠している時に別の女と遊んでいたんだから」

 実母がニヤリと笑うと、駄目親父の現妻である義母へ意地悪に笑いかける。義母はそれに怯えた様子をみせると、駄目親父の背中に隠れていた。ダメ親父はここぞとばかりに胸を張って元妻を睨みつけているが、多分それ義母の演技だと思うな…。
 そっか、駄目親父はもともと浮気体質で、浮気をはじめたのは駄目親父からなんだな……

「その時点で冷めたんだけど、この人お金だけは持っていたからね。子どもを育てるのにはお金がかかるもの。ATMとみなしていたつもりだけど…徐々に一緒にいるのが嫌になってねぇ」
「おい。俺ばかり責めるがお前だって似たようなものだろ」
「私は彼だけだもの。私が辛い時、彼が支えてくれたの」

 そう言って実母は、隣にいた男性の腕に絡みついてラブラブアピールをしていた。
 ……彼女も妊娠中に不倫をされて傷ついてきたのだろうが、それを嗣臣さんの前で言っちゃうのか。あんたらが自分勝手な情欲に溺れている間、親の庇護を必要とする嗣臣さんは孤独だったんだぞ。支えてくれるような大人がいなくて、一人耐えていたんだぞ…! それが原因でグレた実績持ちなんだからな!?

「お前、老後の心配でもしてるんじゃないのか? もう子どもを産める年でもないもんな」
「余計なお世話よ……そもそも私はそんなに子ども好きじゃないのよ。あなたが産めというからいやいや産んだだけ」

 実母のその言葉に、嗣臣さんの肩が揺れた気がした。
 私の友人である琉奈ちゃんも鬼母に「産むんじゃなかった」と暴言を吐かれていたが、彼女は言われ慣れているように表情を動かさなかった。だけどその実、彼女はひどく傷ついていたのだ。
 それは嗣臣さんも同じだろう。
 彼は私の前ではカッコつけたがるから、絶対に吐き出してくれないけど、今も大人たちの身勝手な発言に傷ついているはずなんだ。彼らの間に挟まれている嗣臣さんの顔が弱っているように見えた。

 産んだのは自分たちのくせに、何を勝手な。
 子どもは嫌いだ、産みたくない、責任取れないって言うなら他にも方法はあったはずだ。
 私はさっきから怒りを抑え込もうと拳を握りしめていた。じゃなきゃ、暴言を吐き捨てそうだったから。
 
 しかし、黙って聞いていれば好き勝手にポンポンと子どもを傷つける発言ばかり…!

「実子の嗣臣さんの前でそういう事言うんじゃねーよ!」

 いい加減に我慢の限界だった。
 表情には出さない嗣臣さんは言いたいことがたくさんあるだろうに黙り込んで両親のケンカを見ている。子どもの頃から見てきた両親のケンカを離婚した後も見せつけられているのだ。
 もう我慢ならん。これ以上嗣臣さんを傷つけるんじゃない!

 第三者である私が突然後ろから叱り飛ばしたのに驚いた彼らはビクッとして固まっていた。

「…何様のつもりだ。子ども作っておいて、放置して、身勝手に不倫して……自分たちのことばかりじゃないか…!!」

 私が彼らを睨みつけながら、ひっくい声で唸りあげると、駄目親父と実母は身構えていた。
 好きな人の両親だろうど、知ったことか。言いたいことを言わせてもらう…!

「親の都合に振り回して申し訳ないとか思わないのか。嗣臣さんがあんたらに失望してるってわからないのか! …なぜ今更になって彼に関わろうとしてくるんだ」

 嗣臣さんはあんたらと一緒にいたら悲しい顔をしているんだよ。親なのに気づかないとは言わせないよ?
 あんたら親の人生があるのと同じように、嗣臣さんにだって彼の人生があるんだ。巻き込んで振り回すのだけはやめてあげてよ。

「頼むから嗣臣さんの顔を陰らせないでくれ。あんたらが出てくるたびに彼が傷ついてるってわからないのか!!」

 彼の心を代弁したつもりで私が叫ぶと、嗣臣さんは間抜けな顔をしていた。

「あげはちゃん…」

 彼は引き寄せられるようにして私のもとに近づいてきた。一歩、また一歩私に近づくたびに表情を取り戻し始めているように見えるのは気のせいではないはず。

「…嗣臣、その子、アンタの好きな子?」

 実母のその言葉に嗣臣さんは振り返ると、黙って視線を送っていた。それを肯定と受け取った彼女はまじまじと私を観察してきた。その流れで私も彼女を観察する。
 ……やっぱり嗣臣さんに似ている。目鼻立ちが整っていて、華のある人だ。若い頃はさぞかしモテたんだったんだろうな、と察することが出来る。

「ふぅん。嗣臣、アンタ女見る目あるじゃない」

 彼女の言葉に私は首を傾げてしまった。
 …見る目ある? 私はてっきり駄目親父みたいに貶してくるのかなと思ったけど、逆に褒められた気がする。
 実母さんは「じゃあね」と嗣臣さんに告げると、再婚相手の男性の腕を引いて去っていったのである。意外とあっさり立ち去ったな。

 そしてここに残ったのが駄目親父と義母と私と嗣臣さんという事になるのだが、私は嗣臣さんの前に立ち、彼らを警戒する。
 何度か遭遇したけどそのどれも印象最悪。嗣臣さんを煩わせ、傷つけてきたであろうこの人達と嗣臣さんを近づけたくなかった。

 ぽん、と肩に大きい手がのせられた。その時はじめて、自分の肩に力が入っていたことに気づく。

「嗣臣さ…」

 私は背後に庇っていた嗣臣さんを見上げようと顔を動かす。しかしその前に彼が私の肩を引き寄せてきたので、私は抱き込まれる形になった。

「!?」

 突然のハグに私の身体は燃えるように熱くなった。ヒェッ…近い、近すぎる……なんだろこの爽やかな香り…香水なんて洒落たもの使っているのだろうか……

「俺は三森嗣臣になるから」

「…は?」

 間抜けな駄目親父の声と私の心の声は一致した。
 嗣臣さんは私の頭に頬ずりするようにぐりぐりと顔を擦り付けてくる。私は何が何だか分からないままで固まっていた。

「もう三森家公認なんだ。それと、結婚式にはこなくていいよ、どうせ呼ばないし。老後の面倒も見てあげない。だけど百歩譲って骨は拾ってあげるよ」

 すらすらとなにやら未来の話をしている嗣臣さん。
 …結婚式? 老後の面倒? 骨を拾う…?
 嗣臣さんよ、アンタ何の話をしてるんだ…

「親らしいことしてくれたことあまりないけど、仮にも親だからね」

 ふぅ、と吐き出されたため息は、彼の憂鬱を醸し出していた。あーぁ、めんどくさいなという態度を隠しもしない。

「お。お前…何を…」
「じゃ、俺デートの最中だから」

 駄目親父は突然反抗的になった息子の言動に理解が追いつかない様子で呆然としていたが、嗣臣さんはこの後のことは知らんとばかりに、私の手を引いて映画館のロビーを突っ切っていった。
 私は彼に引っ張られるまま、小走りで彼を追いかけたのである。


 下の階へ降りるエスカレーターに乗って降下している最中、私は後ろを振り返ったが、駄目親父が追いかけてくる気配はないようである。

「あ、あの、嗣臣さん」
「不思議だね、スラスラ言えちゃった。あげはちゃんが隣にいたからかな?」

 そういった嗣臣さんはいたずらが成功した少年のように楽しそうな笑顔を浮かべていた。

「ずっと“骨だけは拾ってやる”って言ってやりたいなって思っていたんだ。…すっきりした」

 気まずいシーンの後とは思えないくらい、晴れ晴れとした表情を浮かべる嗣臣さんに私は面食らってしまった。
 嗣臣さんと駄目親父、実母の間の親子という縁は切れたわけじゃない。だけど一泡吹かせてやりたかったのだと彼は言った。

「あげはちゃんが俺の気持ち代弁してくれたからね、俺もなにか言い返してやりたくなったんだ。…ありがとね」
「…いえ」

 たまには弱いところ見せてもいいんですよ、とか、こんなので良ければいつでも助けてあげますよ、と声を掛けてもきっと嗣臣さんは誰にも頼らずに内々で抑え込もうとしちゃうんだろうな。
 私はいつも嗣臣さんに陰ながら救われてきた。だから私だってお返しがしたいのだ。……少しでも、力になれたのなら良かった。

「次はどこに行こうか?」

 指を絡め、恋人繋ぎをしてくる嗣臣さんは今日も私を愛おしいと目で訴えてくる。その目を見ると、幸せでくすぐったくて、笑い返してしまうのだ。
 ……きっと、私も彼と同じような目をして、彼に好きという気持ちを目で訴えているのだろうな。

 彼の目には、私はどんな風に映っているのかな?


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