三森あげは、淑女を目指す!【紅蓮のアゲハって呼ぶんじゃねぇ】 | ナノ



清く正しく美しく! 三森あげはを夜露死苦!
汝の敵を愛せよとまでは言わんが、剣を取る者は、剣で滅びるんだぞ。



 文化祭の準備と並行して普段どおり授業は行われる。それをこなしていたらあっという間に文化祭当日となってしまった。
 案ずることなかれ、準備は万端。後は本番を迎えるだけである。

 文化祭スタートとともに、校舎内にたくさんの来場者が入場してきた。大々的に文化祭アピールしているわけじゃないのに結構な人の入りで、もうすでに人気店は満席になっている。
 隣のクラスとの合同劇は午後からの上演。
 それまでの時間は自由時間なのだが、その時間を利用して自主的に集客に走っていた。


「君可愛いね、それシスターのコスプレ?」
「ヒッ…!」

 チャラい男に絡まれた彼女は顔面蒼白になり、フリーズしていた。文化祭で上演する劇のチラシを配っている最中、他校生からナンパされる茉莉花の姿を発見した時、私は配るのを中断して彼女のもとに駆けつけようとした。
 だがしかし、それよりも先に間に割って入ってきた人物が居た。

「ぁあ゛!? テメェきったねぇ手で触ろうとしてんじゃねぇぞ!!」

 ヤンキー臭隠さない金髪黒マスクが茉莉花を背に庇い、ナンパ男たちを威嚇したのである。それには茉莉花やナンパ男だけでなく、私も驚いた。

「な、なんだこいつ…」

 金髪に黒マスクのヤンキーという組み合わせに不穏なものを感じたのか、ナンパ男はすごすごと引いていった。…話のわかるやつで良かったな、黒マスク。

「茉莉花さん! ご無事ですか!」
「あ…はい…」

 無事を確認された茉莉花はびくと肩を揺らしてびっくりしていたが、頭をペコリと下げると小さくお礼を言っていた。
 反対に黒マスクはといえば、茉莉花への好意を隠しはしないものの、彼女が怖がらないように一定の距離を保っている。

 ……腕っぷしは弱いし、不良だし、ちょっとアホだけど、好きな子に精一杯の優しさを見せる黒マスクは人間として成長したなぁと感じる。
 アホだけど素直なんだよなぁ、あいつ。

「茉莉花さんの劇、観に行きますね! 応援してます!!」
「あ、ありがとうございます…」

 興奮気味に応援する黒マスク。その勢いに茉莉花も引き気味だけど、ちょびっとだけ黒マスクに耐性が生まれたようにも見える。ほんの1ミクロン程度だけどね。
 劇の題目である映画のDVDレンタルして予習もしてきたんですよ! と熱弁する黒マスクと、苦笑いする茉莉花を眺めながら、私は先程のナンパ男を思い出していた。

 我が雪花女子学園は名前の通り、女の園だ。
 普段は男子禁制だが、文化祭などのイベント時はそういうわけじゃない。そんなわけで下心を抱えた男が学園祭に潜り込んでくるんだよなぁ……校内で男性から暴行されかけたとかで警察沙汰になることもあるんだ。
 自ら不良共を引き寄せている私が偉そうなことを言えた口じゃないけど、あれ、もう少しどうにかならないのだろうか……せめて期間中警備員を雇うとか……

「シスターのコスプレか? …そそるな」

 背後から掛けられた声にゾッと悪寒に襲われた私は反射的に裏拳をお見舞いした。
 しかしその攻撃はやんわり流され、その手を掴んだ相手によって壁に縫い付けられてしまった。

「……なぜ、ここにいる」
「お前に会いにきたに決まってるだろ? あげは」

 時折私の目の前に現れてはWeb小説みたいな臭いセリフを吐き捨てるアシンメトリー男がにやにやと笑いながら私を壁ドンしていた。
 その距離、約数センチ。近すぎるぞ。
 学校のど真ん中でやめてくれないかな。私まではしたない女だと思われてしまうじゃないか。

「ホント懲りないね、お前」
「うぐっ!?」

 両腕を押さえつけられてどうしようかと考えていたが、アシンメトリー男はあっさり私から離れていった。
 いや、物理的に引き剥がされたとも言う。

「あっテメッ」

 私を助けてくれたのは嗣臣さんだ。彼はアシンメトリー男の髪の毛を鷲掴みにして引き剥がしたのである。
 額に血管を浮き上がらせた嗣臣さんはここで会ったが百年目とばかりにアシンメトリー男を睨めつける。そして2人は息ピッタリの頭突きで挨拶をした。ゴチンと頭蓋骨同士がぶつかり合う音が聞こえてきてこっちまでおでこが痛くなってしまう。

 お、おい…ここでのケンカはよしてくれ。また停学になってしまう。

「はいはいストップ。匠海君、俺とお外でお話しようや」

 それを止めたのは意外な人物であった。

「鮮血の琥虎!? なにすんだ離せ!」

 意外や意外、我が兄だ。嗣臣さんと一緒に遊びに来ていた兄・琥虎がアシンメトリー男・匠海の首根っこを掴んで連れ去ろうとしたのだ。
 喧嘩なれした兄ではあるが、アシンメトリー男は強いぞ。大丈夫かなと心配に思ったのだが、兄は手慣れた様子で引っ張っていく。

「離せ、鮮血の琥虎! 俺はあのいけ好かない野郎と勝負をつけるんだ!!」
「別にこの学校で付ける必要ねーだろ。あげはの立場くらい考えろや」

 停学騒動で私が鬱っぽくなっていたのを知っているからか、兄は私のことを考えてアシンメトリー男を引き離してくれたようである。普段はクズだが、たまに兄っぽいことすんだよねぇ…
 兄たちの姿が見えなくなると、嗣臣さんが心配そうに「あげはちゃん」と声を掛けてきた。

「大丈夫? なにもされてない?」
「……大丈夫ですけど。お願いですから、ここで喧嘩しないでくださいよ」
「ごめんね、あいつの面を見ていたらどうにも冷静さを維持できなくて」

 今や嗣臣さんとアシンメトリー男は犬猿の仲である。会えば頭突しあわないと気が済まないようだ。
 多分アシンメトリー男が私に手を出して来たこと、狙ってる発言をしているから警戒しているんだろうが、私はあの男には興味ないから心配しなくてもいいと思うんだ。

「まぁ西さん!」
「いらっしゃい、文化祭楽しんでいらしてね」
「今年も12月のクリスマスに炊き出し会を開催しますのよ。ぜひいらしてね」

 そこに偶然通り過ぎたシスターたちが嗣臣さんを発見すると、いつもよりもはしゃいだ声で歓迎していた。嗣臣さんは礼儀正しく挨拶をしている。めちゃめちゃシスター受けいいよね、彼って。

 その後空き時間いっぱいチラシを配りながら、文化祭会場を嗣臣さんのために案内した。
 ウチは清貧をモットーとしているので、豪華なものも派手なものもない。女生徒しかないので、男性が思いつくような出し物もない。それでも嗣臣さんには見るものすべてが新鮮に見えるみたいで、終始楽しそうにしていた。
 そして今日も相変わらず私に食べ物を貢ぐ。嗣臣さんは私に甘すぎると思うんだ。

「誰なのあの人」
「かっこいい…」
「あっあの人去年の炊き出し会に来た人じゃない!?」

 そんな女子生徒の吐息混じりのささやき声が耳に刺さって居るのに、まるで嗣臣さんには聞こえてないみたいだ。
 貢ぎ物のクレープを食べている私はちらりと横目で彼を見上げる。私と目が合った彼は、柔らかく微笑みかけてきた。

「あげはちゃん、クリーム付いてるよ」

 そう言って私の唇を嗣臣さんが指でなぞると、周りできゃあ! と声が上がった。
 嗣臣さんを知っている生徒、知らない生徒両方とも、彼を見てはきゃあきゃあはしゃいでいる。嗣臣さんってやっぱり女受けいいよね……
 こんなにモテるのに、調子に乗るわけでもなく、地味な格好した私をデレデレ見つめるイケメン。私が神妙な顔で彼を見上げると、嗣臣さんはにっこり笑い返してきた。

「シスター服のあげはちゃんと一緒にいるとなんだか変な感じがするな」
「…顔と手以外すべて隠れてますからね」

 照れくさくなって髪を隠しているウィンプルに触っていると、「大丈夫、おかしくないよ」とそっと撫でてきた。

「劇、楽しみにしてるね」

 そういえば劇を観に来たんだよね……練習したとはいえ、見られるの恥ずかしいな。期待されるとプレッシャーが……
 2時間弱の上演。あぁ、なんだか緊張してきたな。


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