三森あげはは淑女になりたい
搾取【藤井陽菜視点】
私には姉が一人いる。ふたつ年上の姉・琉奈だ。消極的で口数の少ない姉はいつも他人の顔色をうかがい、暗い表情をしていた。
そんな姉だが、昔から成績が良く、何らかの賞を取るくらいには優秀だった。
だから、先生がお姉ちゃんが褒める姿を見るのが私は大嫌いだった。それにママもそんなお姉ちゃんのことが嫌いみたいだ。お姉ちゃんを見ていると、ママのお姉ちゃんを思い出すんだって。
私は昔から何でも独り占めしたい質だった。パパもママも私を優先してくれた。私は妹だから愛されていたの。女の子だから勉強はできなくてもいいってパパもママも言ってくれた。
私は可愛いから、嫁ぎ先には困らないでしょうって。
だからお姉ちゃんのように馬鹿みたいに勉強なんてしない。勉強なんて無駄。成績が悪くても、私は可愛いから大丈夫なの。
私はなにが何でも姉より優位でいたかった。初めは…お姉ちゃんにいじめられたって嘘ついたことだったかな。
訳も分からずパパとママに叱られたお姉ちゃんは否定していた。必死の形相で弁解していたけど、パパに打たれていた。頬を叩かれて呆然としたお姉ちゃんを見た時は愉快だった。
それからずっと、私はお姉ちゃんからたくさんのものを奪ってきた。
お姉ちゃんの友達に「お姉ちゃんからいじめられている」とホラを吹きこめば、陽菜の言うこと信じてくれるの。お姉ちゃんは悪者になって、お姉ちゃんの周りから人がいなくなった。あっという間に孤立したの。
お姉ちゃんの彼氏だった学くんも一回寝ただけでころっと引っかかったわ。暗くて自主性のないお姉ちゃんよりも天真爛漫で明るい陽菜と一緒にいたほうが楽しいんだって。
実際のところ、お姉ちゃんはヤらせてあげなかったみたい。馬鹿だよね、なにをもったいぶってるんだろう。
だけど、学くんにもちょっと飽きてきたなぁ。お姉ちゃんの彼氏だから粉掛けただけなんだもん……
お姉ちゃんの幸せは全部私が手に入れないと気がすまないの。だって私は妹だもん、何だって手に入らなきゃ気がすまない。
だいたいお姉ちゃんは自ら悲劇のヒロインになりに行っている気がする。お母さんにガミガミされながら家事を手伝ってさ。そんなことしてもお母さんには完全に嫌われているんだから諦めたらいいのに。……被害者ヅラして馬鹿みたい。
学校だって女子校に進んでさ、男がいない青春とかどうかしてる。
姉のする事なす事全て鼻につく。
なんであんな人が私の姉なんだろう。紹介するのも恥ずかしいよ。
そういえばお姉ちゃんは私服も、フリマで購入した中古ばかり身につけている。私はいつも流行りの洋服を買ってるのに。ママが沢山お小遣いをくれるもん。
そんなふうにダサくてもさいから彼氏が去っていくんだって。女捨てちゃダメだよ。
そういえばお姉ちゃんが帰ってこない。
……もしかして、家出しちゃったのかな?
死んだところで別にどうでもいいけど。そうなれば金食い虫が消えて清々するもん。