白いベッド
拍手お礼文『Lilly』から(2019/02/17〜03/05)


「んん…? ルキーノ」

目を覚まして最初に見えたのはルキーノだった。
ベッドを隠すように惹かれた薄いレースのカーテンを小さく開いて、困ったように笑うルキーノにリリーは首をかしげる。

「…ごめんね、リリー。起こしちゃったね」

カーテンの奥に入ってきたルキーノに腕を引かれ起き上がった。
学園のことやここでの勉強の基礎をコマクサのもとで学び始めて何日か経つ。
頭に色々なことを詰め込んだ。
そのおかげか疲れていたのか夢も見ずに眠っていたようだ。
ベッドの置くのにある窓に視線を向ければ、まだ月がてっぺんに近い位置にいる。

「ルキーノ、今帰ってきたの?」

ルキーノの頬を小さな手が挟む。
疲れた表情の彼は、柔らかな小さな手のあたたかさに緩んでいく。

「なんだか、ルキーノ、疲れているみたい」

見たままのことを伝えれば、ルキーノはこどものような表情で笑った。
自分の頬よりも硬い頬。
優しい彼の頬を何度もなでて見れば、大きな手がリリーの手を握る。
ルキーノの頬は何かで汚れていた。
かすかな月明かりでしか見れないそれが何かはわからない。
大きな手に引かれ、リリーはソファーに移動した。
いつもより言葉数の少ない彼の手がリリーの手を握る。

「…、ごめんね、少しこのままでいていいかな」

「ん」

いいよ、と囁いて、ルキーノの肩にもたれた。
眠たくて、呼吸が穏やかになっていく。

「リリー、眠っていいよ」

「…ん、ルキーノも」

そういえば、彼のヨウランがいない。
どこにいるんだろうと、あたりを眠たい目で探すが見つからなかった。
彼の手の甲はなにか付けているのかふわふわしていた。
その触り心地が気持ちよくて、思わずなでてしまう。

「リリー、くすぐったいよ」

穏やかなルキーノの笑い声にリリーも笑った。

「明日、ダリオが起きてきたらびっくりするかもね」

「そうだね」

思わず小さく笑いながら、リリーは目をつむった。
もう眠気に抗えない。
眠ってしまおう。

穏やかになっていくリリーの呼吸につられて、ルキーノの寝息もおなじようになっていく。
優しい時間に心が洗われていくような気がした。
白いベッドに眠る、綺麗な子を少しだけ眺めたい。
癒されたい。
そう思って覗いただけだったのに、こんなにも近くに感じられるなんて。

「リリー、ありがとう」

ちいさくそう呟いて、ルキーノは目をつむった。
彼よりも早く起きて、後片付けをしなければいけない。
それから、彼が目覚めた時に、覚えていないように、跡形もなく。
握り締めた小さな手が暖かくて、嬉しかった。

「おやすみ」

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