一足お先
拍手お礼文『神様なんていない』から(06/20〜9/10)
「ココちゃん、泳げなかったのね」
「ココ、基本的に運動できないから」
「そうだったね。ごめんね、笑って。そんなむくれた顔しないで」
むすっとしたココが浮き輪に体を預け、流れるプールの中流れていく。
その様子をプールサイドに立って見ていた古道はまた笑わずにいられなかった。
「ココちゃん流されちゃってるよ」
「ちょっと止めてよ」
「ふふ、ごめん、ごめん」
そう言いながら、プールの中に入ってきた古道はすぐに浮き輪を片腕で引き寄せる。
古道の元に戻ってきたココは今度はむくれた顔をやめて古道を見つめた。
「ちょっとプールに入るのは早かったかもね」
「まだ6月だからな。一足先に夏を楽しんじゃうね」
「うん。貸切プール、いいね」
「お父様に感謝しないとな」
「後で会いに行こうね」
「ココちゃんが行くとお父様デレデレするからなー」
そう言いながら流れるプールを進んで行く。
ココは古道の腕に触れて、ん、とキスをしてほしいの合図を送った。
「んー」
「ん、ふふ、えっちー」
「ココちゃんがキスしてって言ったんでしょ」
「言ってない〜」
浮き輪を揺らすとココがきゃっきゃと笑いながら、古道の腕をひっかいた。
その甘い痛みに古道も笑い、もう一度キスをする。
「あとで飼い主様も来るって」
「本当?」
「俺がココちゃんに嘘言ったことある?」
「ないー。ね、飼い主様が来るまで、いっぱい遊ぼっ」
「そうね。ココちゃん、あれいこ」
「うんっ。なんだっけ、ウォータースライダー!」
浮き輪をプールサイドに寄せて、ココを抱きかかえ浮き輪を外す。
それからふたりはパタパタと歩きながらウォータースライダーへ向かった。
階段を上がり、ココを後ろから抱きしめウォータースライダーの中に入る。
「ドキドキする!」
「行くか」
「うん!離さないでね」
「もちろん」
ぎゅっと片手で抱いたまま手すりに捕まっていた古道は、手を離した。
ばしゃんと大きな音が聞こえて鼻がツンとする。
水の中から出ればすぐに古道が抱きかかえてくれた。
「ケホッ、けほっ」
「水が入ったみたいだね」
「ん、ふふ、楽しかったっ。けほっ」
「そうね。ココちゃんの悲鳴すごかったわ」
「怖かったけど、楽しかったー」
「そ、それならいいよ」
子どもみたいに騒ぐココに、懐かしい感覚がよみがえる。
目を瞑れば、あの日の心路の姿と、つながるように感じた。
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