初めての話-おやすみなさい編-
「ごめんなー、客用布団がなくてさ。だから、ベッド使って」

「い、いや、あの、俺がソファーで…」

「素直、ここは恋人のいうことを聞けって」

「でも…」

「んー、じゃあ、一緒に寝るか」

直樹の申し出に思わず素直は固まってしまった。
恋人のベッドで一緒に眠るのは、それは「恋人」という関係では当たり前かもしれない。
落ち着いてきた心臓が急にまた跳ね上がり、このままでは死んでしまうのではないか、と思うくらい駆け足でなっている。


「そうしよう、それがいい」

「えっ」

あっという間に直樹は掛布団を開いて素直の背中を押す。
抵抗する間もなく壁側に押しやられて、素直はちょこんと座った。


「ほら、寝転がって。布団かけられないだろ」

「は、はいっ」

裏返った声にとても緊張していることが自分でもわかってしまい、素直は赤くなりやすい頬を真っ赤に染めた。
もぞもぞと横になり、直樹が布団をかける。
柔らかな肌触りの布団が心地よいけれど、緊張しているせいでそんなこともわからない。
リモコンの消灯ボタンを押して、あたりが暗くなる。
しんとした部屋に、素直の鼓動だけが響いているような気がした。


「ははっ、すーなお」

まるで子どものような直樹の声に素直はちらりと直樹を見る。
直樹は悪戯っぽい笑みを浮かべ、素直の頬に手を当てた。
むにっとまだ幼い頬をつまみ、ケラケラと笑う。


「んむ、痛い、ですっ」

「素直のほっぺた柔らかいな」

「もー、し、仕返しっ」

爪先で直樹の足の甲をつつく。
そんな素直の仕返しに、直樹はなおさら楽しそうに笑った。
直樹の足も仕返しの仕返しに、足の裏をくすぐり始める。


「も、やだ、あっ、くすぐったいっ、ふふ、」

「はは、…素直」

これまでとは違った声色で名前を呼ばれ、素直はびくりと固まった。
伸びてきた手は素直の耳をくすぐり、その後頬に垂れた髪を耳にかける。
きゅうと心臓が締め付けられて、素直ははぁ、と吐息を漏らした。


「素直、」

もう一度、名前を呼ばれ、素直はそっと目を瞑った。
直樹の吐息が触れて、唇が合わさる。
足が触れて絡まり、直樹の手が素直の柔らかな髪を撫でた。


「ん、…は、まおろし、さん」

「直樹だって」

「ん、直樹さん」

「はは、なんかやらしいこと、してるみたいだな」

ぼっと赤くなった素直に直樹は笑った。
伸びてきた腕に抱きしめられた素直は、甘えるようにぎこちなくすり寄る。
直樹の腕の中はとても温かくて、素直は目を瞑った。


「おやすみ」

聞こえてきた直樹の声に、答えることもできずとろとろと甘い睡魔に襲われていった。

初めての話-おやすみなさい編-
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