残念ながらべた惚れ
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今日も来ると思った。


お気に入りのレストランで
いつものように昼食をとっていたら。
隣のカフェテラスに"あの人"が来た。
今日も俺が座っているのは
レストランの外に並べられているテーブル。
ここからだと"あの人"が
隣のカフェテラスに来るのがばっちり確認できる。
(いや…別に確認したいから今日もここに座るんじゃなくて、
たまたまだ、たまたま。)


俺よりは年上…
だと思う。
俺みたいな裏の社会で生きる人間じゃなくて、
普通にこの国の社会に居場所がある人。
OLかな?学生ではないような。
カフェテラスにはいつも休憩に来ているみたいだ。
"あの人"がカフェテラスの外のテーブルに座って
アイスコーヒーを店員に注文するところを
俺は一時ピッツァを食べる手を止めて見つめていた。


「じゃあミスタ、ナランチャ、後は頼みました」
「おーじゃあなー」


そう話すフーゴとミスタの声で我に返る。
今日は午前中、フーゴとミスタと俺の三人で
ある事件の調査を終わらせて
フーゴとはこの後別行動だ。
今昼食をとっているこのレストランで
俺とミスタは
今別の用件に出かけている
ブチャラティとアバッキオと落ち合うことになっている。
(そういや「頼みたいことがある」って
ブチャラティ言ってたなァ…なんだろう?)


「ブチャラティとアバッキオ遅ェなー。なァ?ナランチャ」
「ん?あ、あぁ。」


ミスタに曖昧な返事を返しながら。
俺はまた隣のカフェテラスの"あの人"を盗み見た。
ピッツァを食べる手は完璧に止まっているから
俺の大好きなマルゲリータは冷めてきているけれど。
いつまでそこに座っているかわからない
"あの人"から目を離すことが出来ない。
(名前…なんていうんだろうなァ)


「おい、ナランチャ、おいってば」
「あ?あぁ」
「なにボーッとしてんだよ」
「別に……」
「お前よォ…」


ミスタが何やら楽しそうな顔をしている。
そして一回俺のことを親指で指してから、
隣のカフェテラスの"あの人"を同じ親指で指して
ニヤリと笑った。


「ナランチャ、お前あそこの女が気になってんだろ」
「なッ、そ、そんなわけ」
「バレバレだっつーのォー
最近この外の席にやたら座りたがるのは
あの女のこと盗み見たいからだろ?」
「ひ、人聞きの悪いこと言うなッ!」
「いい女だよなァー気持ちはわかるぜェー」
「だだだから違うって…」
「隠すな隠すな、この俺を騙せるとでも思ってるのか?
おいナランチャ、お前見てるだけじゃなくて話しかけてみろよ、
まだ名前も知らないんだろ?」
「で、出来るかそんなこと!」
「ほらやっぱ気になってんじゃねェーか。
なんなら俺が聞いてきてやろうか?
お前は女に疎そうだもんなァー」


そう言って席を立って"あの人"のところへ行こうとするミスタを
慌てて阻止しようと
俺はガタン、と立ち上がった。
思いのほか大きい音を立ててしまった。
反射的にカフェテラスにいる"あの人"を見ると
"あの人"がアイスコーヒー片手にこちらを見ていたので
慌てて目を逸らした。
(やべ、今、目ェ合った……)


止めてもなお
俺をからかっているのか
「いいからいいから、
名前と、後何聞いてきてやろーか?」
とか言いながら席を立とうとするミスタと
ガタガタ争っていると
視界に遠くからこちらにやってくる
ブチャラティとアバッキオが見えた。


あ、と思う間もなく
ブチャラティたちは俺たちのすぐそばまで歩いてきて
でも途中で2人の足が
俺とミスタのいるレストランではなく
"あの人"がいるカフェテラスに向かう。


俺が頭に「???」を浮かべていると
ブチャラティは"あの人"に声をかけ、
二言ほど話したかと思うと
"あの人"は席を立ち、
近くの定員にお金を払ってから
ブチャラティとアバッキオに続いて
こちらに歩いてくる。
(え?なに、なんなんだ?てかこっちに来る…!)


「ナランチャ、ミスタ、悪いな。待たせた。」


ブチャラティがそう言うと
後ろに付いてきてる"あの人"を手のひらで招き
"あの人"は俺とミスタにぺこり、と頭を下げた。


「こちらの女性は名前さん。ナランチャ、ミスタ、
今日から2人にはこの方の護衛についてもらう」
「は?」
「え?」


ブチャラティがそう言ってから
俺とミスタが間抜けな返事を返すのは同時。
ミスタとの争いは既に一時停止状態で。
ふざけあってるように見えたのだろうか、
名前と紹介された女性がこう口にした。


「ふふ…お2人、仲がいいんですね」


は、としてミスタの体を掴んでいた手を離した。
しかしあまりに予想外の展開。
ミスタもさっきまでの元気はどこへやら、
少しポカンとしている。


「詳細は後で話す。いいな、ナランチャ、ミスタ、
繰り返すが今日からお前たち2人は名前さんの護衛だ」
「お、おぉ…あんた、名前名前ていうのか?」
「はい。突然すみません。よろしくお願いします。えと…あなたは…」
「俺はミスタだ。んでこっちのちっこいのがナランチャ。
おい、ナランチャよかったな。名前名前ていうんだってよ」
「!、ミスタ、お前余計なこと…!」
「あの…私の名前が何か……」
「あぁ、実はこいつがあんたの名前知りたがっ」
「わあああああああああ!!」


これ以上ミスタにしゃべらすのは危険だ!
すんでのところで大声を出してミスタの口を
後ろから両手でふさぐ。
(なんだもう!なんなんだ今日は!)


"あの人"…名前が目をぱちくりと見開いて俺を見ている。
たまらず恥ずかしくなって、
俺はミスタから手を放して
下を向くしかなかった。


「…で、護衛って具体的に何すればいいんだよ、ブチャラティ」
「今日のところはナランチャと2人で無事に家まで送ってくれ。
それからのことはまた明日話す」
「あ?それだけか?」
「今日のところは、だ。
俺とアバッキオはこの後また別件の用事がある。
それに、護衛にはお前とナランチャのスタンドがぴったりだからな」


そう話すミスタとブチャラティ。
俺はただ黙って聞いているしかなく、
でもその間、なぜか名前からの視線をずっと感じていて
だから余計に顔を上げられずにいた。


ここ数日、
何故かずっと気になっていた女性。
このレストランから毎日盗み見ていた女性。
名前…ていうのか……。
その時の俺は
名前をなんていうのか知りたかったこの女性の名前が知れたこと、
今こうして俺の前にいること。
そのことで頭がいっぱいで
なんで名前を護衛しなければならないのか?
その理由は?
そういうことに頭がまわらないでいた。


「あの…ナランチャ…さん?」
「!は、はい!」


突然名前に話しかけられて
思わずビクリとした自分が情けない。
顔を上げると名前は心配そうな表情をしていて、
そんな名前の隣でミスタはまた楽しそうな
からかうような顔をしていた。


「あの…やっぱり突然ご迷惑ですよね、
見知らぬ私なんかの護衛だなんて…」
「あ、い、いや…」
「あー名前さん、それは心配しなくていいッスよ。
こいつ嬉しくて緊張しているだけなんで」
「??うれしい?」
「おま、ミスタ!また余計なこと…!」
「なんだよ、ほんとのことだろ?」
「〜〜〜〜っ」
「あの…つまり…」


名前が控え目に、
申し訳ない声で俺の目を見て。


「ご迷惑ではない…ということですか?」


そう聞いてくるから。
そんな不安そうな顔をしてほしくなくて。
俺がコク…と頷くと。
名前はぱぁっと
まるで花が咲くように表情を明るくして


「よかった…!本当に突然すみません。
これからよろしくお願いします、ナランチャさん」


そうやって溢れんばかりの
まぶしい笑顔で俺に言うから。
なんか、もう。
いつから、だとか
どうしてなのか、だとか。
そんなことに説明はつかないけれど、
もう認めるしかなくて。


残念ながらべた惚れ


(ミスタさんも、よろしくお願いします)
(おー。まぁなんか事情があるんだろーけどよォ、
ナランチャが体張ってでも護衛するらしいから心配いらねーよ)
(ナランチャさんが??)
(ミスタ…もうやめてくれ…認める…認めるから…)
(???なんのお話ですか?)
(あーあのですねーこいつ名前さんのことが…)
(わあああああああああ!!)


**************
初々しい恋10題
確かに恋だった様よりお借りしました。
10題なのであと9話続きます。
2012/06/23 すず

     

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