はぁはぁと荒い呼吸を繰り返す苗木くんは、きっとそろそろ限界なのだろう。
心優しい彼は僕の血を飲んで理性を失くすことを恐れ、中々僕の血管に食らいついてくれなかった。
まったく、可愛いなあ。僕は君に血を吸われ必要とされることが一番の喜びだというのに。
指先をがり、と歯で噛み、ぷつりとした血を出した後、無理やり苗木くんの口に突っ込んだ。抗う隙も与えずに。

「んむ!」
「ほら、苗木くんご飯だよ」

いっぱい食べて。そう甘く囁けば目を見開いて舌で押し返そうとしてきたが、滲む血の味に気付いてしまったのだろう。
すぐにとろんと赤い目を光らせて親指をちゅうちゅうと赤ちゃんのように吸い始めた。
震える両手で僕の手をしっかり掴み、もっと欲しいと強請るかのような舌先で僕を惑わす吸血鬼。小悪魔といってもいいかもしれない。
その愛らしさに見とれながら口内で舌先に指をぐりぐりと押し付けてみた。どろり、瞬く間に血液が更に溢れ出す。

「ッふ、こま、えだく…」
「ふふ、夢中になっちゃって、可愛いなあ…僕が苗木くんにそんな顔をさせてるのかと思うと、とっても興奮するよ…」
「っは、ん、む」

はふはふと荒い呼吸で必死に食らいつく姿はどこか懇願しているようにも見える。
赤くほて上がった瞳が涙で揺らぎ、興奮のためか頬はほってており魔的な美しさを持っていた。くらり、酒に酔ったかのような目眩が自分を襲う。

「…もっと、食べていいんだよ」

あぁ、とっても、可愛い。見ているだけでイってしまいそうだ。恍惚とした気分になりながら更なる欲求に急かされ口内に指先を這わせ尖った歯に指の腹を乗せた。
そのまま力を込めれば、ぶつり、と嫌な音と共に皮膚が敗れ再度勢いよく飛び出してくる血が苗木くんの腹を満たす。

「んんんッ、っひ、うむ、!」

どくどくどくどく!苗木くんの体が鼓動するかのように身震いし、目元に赤味が指す。
まるでセックスの時のような顔をするな。扇情的で気持ちよさそうで、とっても煽られる。
涎が垂れるのを耐え切れず、つう、と口から出てき始めた液体をじゅるりと飲み込みながら僕は苗木くんの首筋にがぶりと噛み付いた。

「うッあ!」

がりりり。強く噛み付いたためどろりとした液体がちょっとだけ出てきた。その血をぺろりと舐め僕は視界の片隅に見える赤い月に嗤いながら目を細める。

「僕もこれで、君と一緒だね」

吸血鬼と人間。捕食者と捕食される者。対等な位置にたどり着けるわけもない関係性。
一夜の夢に身を任せハロウィンという幻の中に僕もいけたら、それはきっと永遠に苗木くんといれる世界なのだろう。
あぁ、こんなにも恋焦がれてしまうだなんて。まるで麻薬のように一度味わったら抜け出せぬ泥沼。
僕は今まさにそこにいる。この麻薬を味わってしまった以上、あとはただただ沈むだけ。

「…愛してるよ、苗木くん」

鎖骨に何度も噛み跡を付ける姿は人とは異なる世界の生き物のようで、まるで自分のものだとても主張するかのように咲いた赤い花は契約の証。
吸血鬼が餌に施すものではなく。餌が施す歪んだ愛情の契約なのだとロマンチックな雰囲気の中狛枝は笑った。



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