くらくらと酔ったかのように視界が歪む。

「ッは、ァ……」
「ん、む、む」

手首の血管に夢中になって食いつく苗木を見ながら俺はなんとか思考を沈殿させないようにとしていた。
急速に減っていく血の勢いにこれはやばいんじゃないか、流石に危機感が出てくる。
それでも中からぐつぐつと湧き出てくる熱は目眩をも引き起こし体の力を奪っていく。更に思考さえも奪っていこうとするもんだからこの憎たらしい吸血鬼め、と内心笑う。

「…苗木」
「ひ、ん、ん?」
「お前、俺の血全部飲む気じゃないだろうな」

ふわふわとした髪の毛に食われていない方の手でなで上げれば、今だちゅうちゅう吸い付いたまま苗木がこちらを見る。
満月の影響か、まんまるい赤い目がやけに光り輝いていてそれはもはやただのケダモノ。
このままでは食われてしまう。ぞくりとしたものが背筋を這い、なんだか気分良くなってきた。あぁ。楽しい。

「……っ、あ、ごめん日向くん!」

しかしそんな俺の様子を見て苗木ははっとしたかのように体を離した。すう、と赤味がひいていく眼を見て正気に戻ったのだろうと理解する。
おかえり苗木。小さく呟いてからくたりと壁にもたれかかる。そして苗木に微笑みそのまま抱きしめた。

「いや、大丈夫だよ」
「僕、いっぱい吸っちゃったよね…ほんと、ごめっ」
「いいんだ。生きてるし。それに、お前に殺されるなら本望かもしれない」
「殺さ、ない…殺さないよ日向くんは…」

あぁ、そうだよな。俺が死んだらお前泣くもんな。だったら死なないよ。お前を悲しませることだけは絶対にしたくないから。

胸元に顔を沈めひくひくと肩を揺らす苗木の頭に顔を埋めながら濃厚な血の香りに鼻を引きつかせる。
お互いに血の匂いを香らせたまま抱きしめ合うというのはきっと可笑しな光景なのだろうな。血みどろな夢物語というのはなんとも素敵だ。
ぎゅう、と力を込め苗木を離さないようにしながら窓にうつる赤い月を見た。
今夜はハロウィン。人の世とは異なる生き物が蠢く一夜。俺もこの一匹の吸血鬼により魂を奪われた人間であり血の契約の元離れたらそれこそ死を意味する。

だがそういうことではない。俺が苗木に抱いている気持ちは契約があってもなくても変わらぬものなのだ。

「…ずっと、俺の傍にいろよ」

どうしようもない独占欲。赤い月に照らされながら俺は一匹の吸血鬼に赤い首輪をかけた。



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