脳内麻薬




恋人との距離があればある程、その人のことを想う時間が増えると聞いた。まったくもってその通りだと思う。
彼のことを考えると仕事も手がつかず十神くんに怒られたり、部屋を出てくる時にスーツの上着やネクタイを忘れて霧切さんに呆れられたり、最近色々よろしくない。
自分が未来機関の一員としての自覚が足りていないと言われてしまえばそれまでの話だが、実質上この原因は彼にある。
僕の心を常に掴み日常を奪っていく彼の存在はとても大きく、同じ地上で同じ空気を吸っているというだけで、ほら、もうこんなにも僕の息子は正直に。馬鹿じゃないか。ほんとに。
最近致していないからって、彼のことを考えるだけで、勝手に熱くなるこの体。一体どうしたものか。まるで盛りの時期に突入した猫のようだ。
自分で比喩しておいてなんとも虚しい例えだが、身じろぐだけで布に擦り切れるこの感触にビクリと揺れる体はまさに盛っている猫。非常に虚しい。
これも悲しき男の性なのだろうか。はぁとベットの中でため息をつきながら、僕はそっとズボンの中に手を伸ばした。
熱くなってしまったこの体を沈めるために、仕方なく行為に及ぼうではないか。そう、これは僕が好きでやっていることではない。仕方なくやるんだから早く終えてしまおう。
そう思い、緩やかに勃起している性器に触れれば、冷えた手先にまた体がびくりと跳ねる。うう、冷たいなあ…。


「…ふっ、…ん」


震える手で幹を優しく撫でる。さわさわと労わるかのように撫で続ければ、そりゃ完全に勃ち上がりもするさ。だって男だもの。はぁ、虚しい。
ここに彼がいればなあ、なんてことは何度考えたことか。一人ではなく彼の手で、彼の体温を感じながら愛を交わしあえればそれこそ一番自分が求める形である。
自分は彼の手が好きだし彼の声も好きだし彼の優しげな顔も大好きなのだ。普段恥ずかしくて中々伝えることも出来ないが、心底惚れ込んでいることだけは確かである。


『―――、苗木』



「っひん!」


ふと彼の声を思い出してしまった。愛おしげに目を細め僕を見ながら熱い吐息と共に僕の名前を呼ぶ、彼の声を。
同時に強くカリを引っ掻いてしまい強い衝撃が体中にざわざわと走るものだからつい甲高い声を上げてしまった。慌てて唇を噛む。

「ふぅ、う、あ、ん」

つう、と粘着質な液体も流れてきた。それを指先で拭いぬるぬると広めながら手を往復させていけば勝手に荒くなっていく吐息。
ベットの中ではぁはぁと息を荒げながら足をシーツの海に滑らせる。
じっとしてこのじわじわとした快感を受け入れることは中々むず痒く、足を何度も交差させたりシーツを蹴り上げたり。その動きは忙しない。
熱に浮かされていく脳内でぼうとしながら、一人という空間がより僕を大胆にさせていく。
何もすることがなかったもう片方の手。服を掴みどきどきと高鳴っていく心臓を抑えるかのようにしていた手だが、周りに人がいないのをもう一度確認してからそろそろと下に下げていった。
そうと、そろそろと、服の上をゆっくりと這いながらたっぷりと時間をかけ、到達した場所は自身の尻。
普段彼がするように自身の尻を鷲掴み揉みこめば、男であるのに少し弾力がある感触が伝わってきた。

「…っ、ん、う、う、」

自身の尻なんて触ったって、別に面白くもなにもない。けれど彼はよくここを触る。男の尻なんて…とは思うが、これをすることにより彼のことを思い出すことが出来る。
そのまま揉み込みながら性器に触れている手も止めず、同時進行で進め、そっと目を閉じた。


『柔らかいな』
「ッあ!ひ、…」
『手に吸い付くみたいで、気持ちいい』
「ふあッ、あッ、あ、あッ」
『前も凄いぬるぬるして』
「ひい、っは、あ、う」
『興奮、してるんだな』
「っうあん!ふ…ゅ、あッ」


だめだ、だめだ、どんどん思い出してしまう。彼の声が言葉が全てが、今の僕を追い詰める術となる。


じわりと快感で滲む涙が滲むのを感じながら僕は尻の奥にある、彼がいつも愛おしげに触る場所に触れることにした。
ここを触るのは正直言って初めてではない。彼のことを思い出し彼の手つきを真似して致したこともある。
しかしやはり緊張と恐れはいつまで経っても消えるものではなく、恐る恐る穴に触れてみる。つん、つん、つん、つつくだけで「は、あッ」と女のような声を漏らしてしまった。

「あ、ううッ、ひな…くッ…」

咄嗟に彼の名前が出てしまったがこれは意識したものではなく本当に無意識の内に出てしまったもの。
その事実に自身が一番驚き目を瞬かせれば、指先の力が狂いつぷりと中に入ってきてしまった。は、あ、あ、喉を震わせる。
尻の穴で感じるなんて、まさか自分がこんな体になるとは思いもしなかったが、それでもうねうねと蠢く中はもっと奥へと欲しているかのようで自身の浅はかさにとうとう涙が伝う。

「は、あ、あ…ッん、ふ、う…」

ずぶずぶずぶずぶ。男なのに、自分は男なのに、本来なら、こんなところで感じちゃいけないはずなのに。



『…可愛い』



「っひ、な、…た、……んッ」



全部全部、彼のせいだ。



背筋にぞくぞくしたものが這い上がり布団を蹴り上げた。
もう我慢出来ない、指を2本埋め込み前立腺の部位を抉りつつ性器の尿道に指をぐりぐりと押し当てれば一気に湧き上がる快感に悶え、口元から流れ出た涎が枕に染み込んでいった。
ぞくぞくとした快感に全身を襲われ、ぎゅっと体を縮こませる。もうだめ、くる、くる、あの衝撃が、ああ、あ、あ、あ。



「ッひ、なたくう…んああああッ…!」



びゅるびゅるびゅる。生暖かい液体が手のひらの中に広がり、唇を震わせ、息を吐く。
頭の中を真っ白に染め上げる程快感は強く、脳内で同時再生された日向くんの存在により背徳感が更に増し涙で滲む向こうで日向くんの顔が見えた気がした。
しかし実際そんなことはありえるはずもなく。最低限の物しか置かれていない殺風景の部屋。視界いっぱいにそれが広がり、結局最後は虚しさが帰ってきた。
暫くイった余韻に浸り、ぼうとベットの中に顔を埋める。気持ちよか、た。けれど、やっぱり彼じゃないと。
睫毛を震わせはぁとため息をつき、ズボンの中から手を出すとやはりそこには滑りけのある液体がたくさんついていた。
溜まってたのかもしれない。ティッシュでその液体を拭い、ゴミ箱へと投げ入れる。外すことなく弧を描き見事入ったティッシュ。またその姿をぼうと眺めた。

「…日向くん」

今すぐ会いたいよ。僕をこんな想いにさせる人なんて、ほんとに、君だけだよ。
恋だとか愛だとか、正直本当に自分に訪れるものなのか怪しかったけれど。今現在、僕は心底君に溺れてるんだ。
残る虚しさを噛み締めながらベットで一人蹲っていると、ふいに携帯がぶるるると震えだした。マナーモードにしてたからバイブ機能が働いたようで、何者からの着信を知らせていた。
一体こんな夜遅く誰なのか。今ちょうど人にはあまり言えぬ行為をしていたため心臓が跳ね上がったが、それを表に出さぬように携帯に触れ、表示を見る。

「…あ」

そこに表示されていた名前につい呼吸が止まる。ばくばくと心臓が煩い程に騒ぎ出し、一気に背筋がピンと伸びた。
…なんていうタイミングだ。まるで、僕の行為が全てお見通しかのような、そんな感じではないか。少しばかり指先が震えてしまい、すうはあすうはあ深呼吸を繰り返す。
あまり時間をかけてしまっては不審がられてしまうかもしれないし、とりあえず出よう。携帯の通話のところをタップし、耳元に当てる。もう快感でかすれた声は出ないはずだ、よな。
軽くあーあーと発生練習をしてから、久方ぶりに話すであろう恋人の姿を想像して笑みを浮かべた。「も、もしもし?」声は震えてない、よね。



(後書き&お返事)


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