おろ
2012/11/18 20:00



僕は密かに彼のことを「電柱の人」と呼んでいる。
何故なら名前も知らぬ彼はいつだって電柱の影から僕の方を見ているからという至極単純なものであり、
更に言うのなら霧切さんに話してみた所彼女が「その電柱の人は」なんて言うようになったのも由縁の一つだ。
霧切さんはいつでも警察に通報すると言っていたが今のところ害もないし見られているだけなのでとりあえず様子を見ることにした。
今日も家を出てからずうっとついてくる電柱の人は僕のあとをこそこそと追ってくる。しっかり姿も見たことはないが体格や身長からして男だと思う。
ちなみに言っておこう。僕も男だ。彼も男。つまり電柱の人は同性の後を必死になって追っているわけだが、こんなこと何が楽しいのだろう。
害がないとはいえ気になるには気になるんだよなあ、誰に言うでもなく呟けば、ふいに上から何かが降ってきた。
ぼたっ、と重みと生ぬるい温度の何かが頭の上に落ちてきたのを感じた僕は「うひっ」と変な声を上げながら一人飛び上がる。
な、なんなんだ今の!なんか頭に!状況が理解できぬままそっと手を頭の上に這わせてみるとなにやらぬるりとした嫌な感触。
まさかこれは…そのまま手を下ろし確認してみるとそこにあったものは白い液体。鳥の糞、だ。

「さ、最悪だ…!」

まさか鳥の糞が頭に直撃するだなんて。
一人おろおろとしながらどうしようかと考えた結果まずはこの頭を拭くことが先決だとバックの中に手を突っ込んだが、こんな日に限ってタオルを持っていなかった。
その事実が信じられなくて更に手を突っ込んだが、タオルらしき感触は得られず虚しさだけが残る。
誰もいない道の真ん中で立ち尽くす自分。頭には白い勲章鳥の糞。あまりにも笑えぬ状況だが、誰にも見られてないだけ良しとしようか。
仕方なく一回家に戻ろうと体をくるりと回転させた。その時。

「ねえ」

――――あ、そう言えばこの場にはもう一人いた。
その事実に気付いた時、目の前の男はにこりと笑いながら僕に向かってタオルを差し出していた。
僕のことをいつも電柱の影から見ていた「電柱の人」単純な言い方をすれば「ストーカー」。
今まで彼が僕に話しかけてくることなどなかったのに、驚き目を丸くしながら目の前に立つ男の姿をまじまじと見た。

「タオル、どうぞ」

ふわふわの色素の薄い髪。人あたり良さそうな笑顔を貼り付けた青年。背丈は僕よりも高く見上げる形となる。
…きっと歳も近いんだろうな。イメージしていた姿とは程遠い姿に戸惑いながら僕はそっとそのタオルを受け取り「ありがとう」お礼の言葉を口にする。
すると彼は少し嬉しそうな顔をして僕を見た。その目はまるで何かを観察するかのような目で不躾な視線が突き刺さる。
なんだか変な気分だ。今まで遠くにいた存在が今目の前にある。ストーカーなどするような人には見えないのに、不思議に思いながら僕は頭の上をタオルで拭こうとして手を止める。
…いやいやいや、拭いてしまったら鳥の糞がこのタオルにこびりついてしまう。見ず知らずの人のタオルを汚すなんてとてもじゃないが悪い。

「いや、その、いいです、お返しします」
「いいから使って」
「そんな、見ず知らずの人のタオルを」

鳥の糞で汚すなんて悪いですから、必死にタオルを返そうと彼に言ったのだが、彼はゆっくりと首を振る。

「見ず知らずだなんてそんな、僕は君のことよく知ってるよ」
「…」

そしてさらりと怖いことを言うものだから、タオルを返そうと出していた手をつい引っ込めてしまった。
見た目普通の好青年といった感じだが中身はそこそこやばい人なのかもしれない。どうしよう、ちょっと怖いぞ。ひやりとしたものが背中を伝う。
しかし、そんなことなど目の前の彼は露知らず。固まっている僕の手からタオルを奪い取り僕の頭をがしがしと拭き始めた。
突然視界がタオルに覆われた僕は「ぎゃっ」と悲鳴を上げてしまったが、彼は構わず僕の頭を拭き続けた。汚れを取るように丹念に。
あわあわとする僕だったがタオルが揺れた時見える彼の顔はとても楽しそうだったのでつい黙ってしまう。よく分からない。彼が。

「…あの」
「ん?」
「…」

変な沈黙になりたくて何か喋ろうとしたのだがさっきまで電柱から僕をこっそり見ていた人に対し何を言えばいいのか思いつかず黙ってしまう。
話してみたいとも思っていたが、いざこういう状況下になると話せぬものだ。口の中でもごもごと考えていたが、結局率直な疑問を口にしてみた。

「…いつも僕のこと、見てますよね…?」

自意識過剰とかではなく、家の前からずっと僕に視線を送ってきている彼。一体どのような目的があってそんなことをしていたのか、







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