露出した腕や足にチリチリと紫外線が直撃しているのを感じる。
日傘と、着ていても涼しい長袖の制服が欲しい。どうして女子はこんなにも露出が激しい制服なんだ、と去年も一昨年も呪ったことを思い出す。
暑さのためか。レッド寮へ向かう道すがら、そんなくだらない事を考えていた。


「十代、何してるの?」
「うおぉっ! って名前か、驚かすなよー。ちょっとこっち来てくれ!」
「えっ、なに?」

目的のレッド寮の手前で十代に声を掛けた途端、傍らの森の中へ引きずり込まれてしまった。しゃがんで身を潜め、キョロキョロと周囲を警戒する十代の腕の中には一丁の大きな水鉄砲。

「あーそっか」

どうやら毎年恒例のあれをやっているらしい。
近くに敵がいないことを確認した十代は大きく息を吐いてニカッと笑った。

「今レッド寮に行くと狙い撃ちにされるぜ。あそこは万丈目が張ってるからな」
「ま、万丈目まで……私、部外者なんだけど」
「あいつそんなの関係ないって感じで寮に近づいたヤツ全員狙ってんだ。ヒデーよなぁ」

そう言いながら笑う十代もまた、半分共犯者みたいなものだと思う。
毎年、この時期になるとレッド寮周辺は戦場になる。ドローパン二十個を賭けた壮絶な水鉄砲合戦が始まるのだ。一年の頃に十代達がレッド寮の物置で水鉄砲セットを見つけたのが始まり。一発でも狙撃されたら即脱落のルールで、わりとシビアだ。
子供っぽい遊びだけど、本気でやると楽しいんだ! とは十代談。

「今回は誰が参加してるの?」
「んーまず俺だろ。翔と剣山に万丈目、吹雪さんに……」
「吹雪さん……」

その名を聞いて、なんとも形容しがたい少し苦い気持ちになった。明日香を一緒に連れて来なくて良かった。そうでなければ今ごろあの綺麗な顔を歪めて悲嘆に暮れていたはずだ。
その後も何人か名前が挙がったがあまり接点のない人たちだった。ほとんどレッド寮の生徒らしい。

「あと、とっておきが一人! この前姉妹校から来た……」
「へへっ! スキありぃ!」
「おおっと!」
「うひゃあっ!!」

突然、十代の背後に現れた人影にたっぷりと水をかけられた。
その照準は十代に合っていたはずなのに、十代のやつ、避けやがって!
心の中で毒づいて怒りの矛先を十代に向けるべく掴み掛かったが、その手は空を切った。

「わりぃ名前! あとでちゃんと謝るからさー!」
「ちょっと十代! 逃げんなー!!」

友達よりドローパンを取るのか遊城十代!
いや、でも私もドローパン二十個の方が惜しいかな……ぐっ、なんか悔しい。
ぽたぽたと顎を伝い落ちる水滴を拭って立ち上がると、上着の裾をしぼった。インナーまで染みこんでいないし、この天気だとすぐに乾くだろう。
さてどうしようか、と顔を上げれば気遣わしげな表情をした碧の髪の人がいた。てっきり十代を追って行ったのだと思っていたので思わず息を飲む。

「ごめんな。大丈夫か?」
「うん、濡れただけだし平気」
「まさか十代と一緒にいるやつがいるなんて思わなかったぜ」

カラカラと笑う彼はどこかで見た顔で、記憶を辿るとすぐに思い出した。

「あーえっと、ヨハン君だっけ? 留学生の。私は苗字名前」
「ああ。ヨハンでいいぜ、よろしくな名前」

差し出された右手を握り返すと、その左手に十代のと同じ水鉄砲を持っていることに気付いた。しばし思考を巡らせて、にこやかに口を開く。

「いきなりだけど、ヨハンに頼みがあるの」
「なんだよ?」
「その水鉄砲を私に譲ってくれない? ドローパンはあげるから」
「それは別に構わないが、やるのか?」
「デュエルでも何でも、やられたらやり返すのが私の信条なんだ」

その言葉にぎくりと肩を震わすヨハン。自分にしっぺ返しが来ると思ったようだ。その気も少しばかりあるけれど、目下の目標はあの十代。このままだと去年同様、勝負運に恵まれた彼が勝つことは必至だ。
意地でも食い止めてやる。八つ当たりなんて知るもんか。
やる気満々な気配を察してか、苦笑いを浮かべたヨハンからその大きな水鉄砲を受け取る。

「だけどこれ、半分くらいしか水残ってないぜ」
「大丈夫。いっぱいあっても重くて動けなくなるから」
「名前もやったことあるのか?」
「一昨年の優勝者をなめないでもらいたいわ。それじゃ、行ってくる」

気をつけろよーと送り出してくれる声を背にして、十代が去っていった方角へ走った。



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