「トリックオアトリート」

今日限りの言葉を浴びせると、フブキングこと天上院吹雪は期待通り、その端正な顔を強ばらせた。

「キミまでそのイベントに参加するのかい? まったく、勘弁してほしいネ」

首を振り、女性ファンが見たら即座に彼に謝り返したくなるような、自身の顔の良さをよく理解している見事な困り顔を浮かべて息を吐いてみせる。
けれど残念、わたしは吹雪のファンじゃなかった。
都合よく、きゃあと色めき立つファンも周りにいなかったのでその表情の効果は不発に終わる。

「今日という日に生まれたことが運の尽きよ」
「それを知っていて話を振るなんてひどいなァ。残念だけど、お菓子は持ってないよ」

悪いネ、と吹雪は笑うけど、わたしは目ざとくも彼が持っている紙袋に視線を留めた。
華やかなラッピングを施された大小様々の箱が顔を覗かせる中から、どことなく甘い匂いがするのだ。特別に鼻がきくわけではないのにここまで香るのは、お菓子の類いがひとつふたつの数ではないからだろうと予測を立てる。今日がハロウィンだからか、なんとなくかぼちゃの匂いのように感じた。
スッと持ち上げられた紙袋の動きに合わせて顔を上げると、吹雪はまた小さく笑った。

「ほとんど手作りらしいんだ。女の子って健気でカワイイよネ」
「なんだ、プレゼントのものなら貰えないな。量がありそうだけど食べるの?」
「ああ。せっかくだからいただくつもりだよ」
「さすが、モテる男」
「それでどうだい? キミに渡せるお菓子がないんだけど、ボクにイタズラでもする?」

両腕を広げて、どこからでもどうぞと受け入れる体勢をとる吹雪。
イタズラをそう真正面から歓迎されては、どんな小さいことでもやり辛い。
少し考えて、吹雪との間を一歩つめる。

「じゃあ、そのプレゼントを増やすイタズラをするわ」
「そうだネェ。名前がもう少しだけ素直だったら、とてもときめくのに」
「……誕生日おめでとう、吹雪」

ずっと背中に隠し持っていたプレゼントを現す。
嬉しそうに目を細め、受け取ってくれる吹雪にほんのりとくすぐったさを感じ、再度お祝いの言葉を口にしたのだった。



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