「私はね、首筋が好きなの。鎖骨から顎までのラインがとても好きなの。かぶりつきたくなるのが特に。だからって血を吸いたいとかそんな妙な性癖は持っていないわ。……ううん、かぶりつきたいという表現は語弊だったかもしれない。そうね、顔を埋めたくなる様な、かしら。とにかく好きなのよ。そういう訳だから貴方のようなハイネックを好む人の魅力があまり分からないの、吹雪」
「君はひどい人だね。男の魅力ってそれだけかい?」
「もろろん違うわよ。ただ、貴方がどうしてそんなにもてるのか分からなくて」
「やだなあ、そんなの決まっているじゃないか。僕が恋をしているからだよ」
「吹雪が恋ですって?」
「そうさ。女の子が恋をすると輝くように僕だって同じように輝くのさ」
「ふーん貴方女の子だったの」
「そんな話をしているんじゃないんだけどな」
「それで誰に恋をしているの?」
「きっとここで君の名を出しても信じてはくれないんだろうね」
「当たり前でしょう? そういう事を伝えたいのなら直接言って頂戴」
「そうすれば二人の想いは通じ合えるのかな?」
「どうかしら。実際にやってみたらいいんじゃない? すっきりするわよ」
「そうだね……ああ、見えてきたよ」
「あら、素敵な装いね。私、そういうの好きよ」
「今日はきっと勝負の日だと思ってね。気に入ってもらえて嬉しいよ」
「それじゃあ、またあとでね。吹雪」
「ああ、またあとで。名前」
ピッ、と通話終了のボタンを押して、彼がエントランスへ吸い込まれていくのを眺めた。寒々としたバルコニーから室内へ戻り、真っ赤なポットを火にかける。
彼が気に入っていた茶葉の紅茶缶を取る為に戸棚を開けると、ぴんぽーんと間抜けな呼び出し音が響いた。インターフォンの受話器を耳に当てる。
『やあ、君に会いに来たよ』
機械を通した不器用な彼の声が耳をくすぐった。



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