「名前先輩どうしたんですか、その腕」

ぽつぽつと校舎内を散策していたら、ばったりエドに会った。いつもと変わらない白っぽいスーツの袖から、これまた白っぽい人指し指を伸ばして包帯の巻かれたわたしの左ひじを指す。包帯でぐるぐる巻きにされた腕は曲げることが出来ず、ぶらんと重力のまま垂れ下げていた。

「ちょっとやっちゃって……」
「あいにく僕には日本人のちょっと、に含まれる意味合いがわかりません」
「うそだぁ人の心でも読めそうなのに」
「そんな能力ありませんよ」

僕をなんだと思ってるんです? もしかして馬鹿ですか。って顔してる。
わたしこそ心の内容を読み取れるのかもしれない。と思ったら、きっちり口も動いていたので言葉に出したらしい。そういうのは胸に秘めといて欲しい。
ふて腐れた反応を返すわたしにため息をひとつ与えて、腕を組む。
ちょっとえらそうで、斜に構えたこれがいつもの彼のスタイル。かわいくない。

「まあ大方、友人とふざけて遊んでいたら窓ガラスに肘を突っ込んだんでしょう」
「やだ、やっぱり分かるんじゃん! エドこわい!」
「さっき先輩のことを話しているのを耳にしたんですよ。こんな馬鹿らしい推測、誰が出来ますか」
「知ってるなら最初から聞かないでよ恥ずかしい」

人のことを敬う様子を見せながら中身はてんでダメである。本質はプロだからだろうか。
うっとおしそうに銀色の前髪を払ったエドの手がまた腕の中に収まる。
そんなちょっとしたことでも妙に様になるのだから、エドの表紙目当てに雑誌を買い求めるファンの気持ちがほんの少しだけ分からないでもなかった。
包帯が巻かれた腕にじろじろと注がれる視線が居心地悪く、きゅっと抱きしめた。

「それ、痛いですか?」
「平気。ときどき曲げちゃって痛いときもあるけど」
「添え木でも当てたらどうです」
「別に骨折したわけじゃないし……鮎川先生も二週間ほどで治るでしょうって」
「名前先輩のことだから、明日には腕を振り回して傷口がぱっくり開くんじゃないですか」
「エドこそわたしのことをなんだと思ってる」
「まあいい。それじゃあ行きましょうか」
「えっどこに?」
「どうせデュエルも出来なくて暇でしょう? かわいい後輩がお茶に招いてあげますよ」

自分でかわいいと銘打つところが既にかわいくない。
それなのに、来ないんですか? 名前先輩が好きだといっていたマドレーヌだってありますよ。なんて言うものだから、わたしもすっかり絆されてるなぁと思いつつ、自然に手を取るエドに引かれて仕方なくホイホイとついていくのだった。



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