いつからだろう、この気持ちに気付いてしまったのは。

ボーッと正臣は空を見つめる。
明日には吉宗が引っ越してしまう。後悔というのは本当に後からくるもんだと思う。

ふと思い出して池袋駅内にあるいけふくろうに来た。よく此処で待ち合わせして街に繰り出したっけ…
といけふくろうを見ながらつぶやく。

正臣は吉宗の事が好きだった。
勿論帝人や杏里だって好きだが吉宗にはまた違った感情を抱いていた。

恋愛感情…というものだ。

そういう意味で好きだったのだ。
吉宗は二ヶ月前に引っ越してきて初日から仲良くなりそれから共に行動していた。
まるで昔からずっと友達だったんじゃないかと思えるほど居心地が良かった。
この関係を壊したくないから言わないで居たのに。

正臣は目を瞑って後悔を押し殺した。

「正臣くん…?」

ふいに聞き慣れた声に呼び掛けられて咄嗟に振り返る。

「なっ、ヨシヨシ!?」

「良かった、本当に居た」

驚いている正臣を余所に吉宗はニコッと笑いながら近寄る。

「なんとなく、ここなら正臣に会えるような気がして」
「…わざわざ探しに来たのかよ。忙しいのに?」

「ううん、片付けならもう済んだよ」

「早いな」

「慣れてるからね」

いつものような軽い会話をした。明日には別れるなんて信じられないくらい。

「…悪いな。なんつーか、こういう別れとかの言葉ってどうも苦手っつーか。何も思い浮かばなくて…」

正臣は何を言ったらいいのかわからずに苦笑混じりに言うと吉宗は静かに首を振った。

その反応に僅かに安堵した正臣は自分の事を話し出した。帝人にも話してないような事を。

「お前に会えて良かったよ。話して少し楽になった」

「………」

「……お前も、あっちで彼女…作れよ。そしたら紹介しろよ」

言える言葉がこれしかないのかと自己嫌悪をしつつ思ってもみないことを口から出てしまった。うん、という言葉が返ってくることを覚悟しながら言葉を待った。だが、正臣の予想に反して吉宗は首を振った。

「…彼女なんて出来ないよ」

「え…?」

いつも自分のナンパに笑顔で付き合ってくれたのに今言われた言葉はあまりにも後ろ向きな言葉だった。正臣は困惑な表情を見せた。
「…なん、でだよ…?だってヨシヨシ、顔は悪くないしノリの良さもいいし、絶対モテるって!」

正臣は思い付く限り吉宗を持ち上げる言葉を言い続けたが、吉宗は一向に顔を縦には振らなかった。

「……出来なくていいよ、いるから。好きな人」

「…え」

時間が止まったみたいに長い間だった。正臣にとって聞きたくない言葉。

「…え、此処に来てからか?」

正臣の言葉に静かに頷く。最初は戸惑って言葉が出なかったが、なんとか絞り出した。

「へ、へぇ〜、何だよ水臭いなぁ。教えろよ!そしたら協力してやったのに」

「……本当?」

まさかの予想外の問い掛けにグッと押し黙る。正直協力したくない。だけど、友達の恋を応援したい気持ちもある。おぅ…と呟くと吉宗は俯いた。顔は仄かに赤くなっている。

そして、ゆっくりと正臣を指指した。

「…僕の、好きな人」

「は?」

今度こそ理解が出来なかった。
目を丸くして指の先を見た。

「…気持ち悪いよね。男が男を好きなんて」

「……!…そんなこと、ない」

ハッと我に返りなんて返したらいいのかわからずに目線を逸らす。正直嬉しいし両想いなのだが、言葉が見つからない。

「僕は出来るだけ君と一緒に居たかったんだ。だから慣れないナンパに付き合ってたんだけど、正臣くんが女の子と話す度に胸が痛くて…」

「あ…」

「でも関係壊したくないから言わなかったけど、明日にはこの街にもう居ないからさ。言っとかないと…って…」

涙を堪えている吉宗の事を見てガッと吉宗の肩を掴んだ。驚いたように吉宗は目を丸くする。

「…はは、なんだ…」

渇いた笑いを零しながら呟く。何も悩むことなんて無かったのだ。もっと早くに気付いていれば良かったのにと後悔する。

「……正臣くん?」

首を傾げる吉宗。どうしたのと表情が物語っている。正臣は軽く笑った後、吉宗の額と自らの額をくっつけた。

「俺も、お前と同じ気持ちだったってこと」

「それって…」

「…好きだぜ、俺も」

至近距離で言われて吉宗は顔を赤くし俯いた。


どのくらいの時間が流れたのだろうか。池袋駅内、人が多く行き来する雑踏の音すら聞こえないような静かな時間が流れた。別に嫌な沈黙では無く寧ろ心地好かった。
吉宗は遠慮がちに顔を上げた。

「…本当?」

「こんな時に嘘ついてどうすんだよ」

何と無く気恥ずかしい空気が流れ二人はどちらかとなく笑いあった。
明日は引っ越し当日。
もっと早く言っていればと後悔もあるがまだ終わりじゃない。

「ねぇ、今日正臣ん家に泊まりに行っていい?」

「もちろんいいぜ!けど、今夜親いねぇからどうなってもしらねーけどな」

「バカ…」


この関係が終わる瞬間
(終わりであり寧ろ始まりでもある)


長いですね。
しかも無理矢理終わらせた感が…
always lover様に提出作品です!正臣×吉宗も初です!
長いですが、読んでくれると嬉しいです!
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