ぼくをみつけるものがたり | ナノ
I knew it all along#2

 この世界は夢の世界なのだ。僕はなんとなくでも理解する。此処は僕の夢の世界、僕の心情が作り上げた幻影の世界。
 いつの間にか、僕は赤い頭巾をかぶっていた。手には、最初の夢を見たときに目覚める直前に気付いたあのバスケットが下げられていた。お洒落な茶色いブーツで、森の中。足を踏みしめがらぼんやりと自分が何をすればいいのかわからないものの歩き続ける。ふっと、また何処かで誰かが泣く声が聞こえた。綺麗な三日月の今日は星が見えなくて、雨が降っていた。





 てくてくと歩いていけば、泣き声はどんどん大きくなっていく。やがて道からはそれ、鬱蒼と茂った森の中を僕は当てもなく『赤ずきん』のように歩いていた。

「…ボクは女の子じゃ、ないのに」

 小さな震える声が聞こえた。「其処で泣いてるのは誰?」そう問えば泣き声は止み、木々の間から僕と同じくらいの女の子?男の子?が顔を出した。その子は金色の髪と赤い瞳を持っていて、怯えたように僕の事を見ている。泣きはらした赤い目に赤い瞳は、とてもきれいに感じた。

「はじめまして、僕は玲音。君はどうして泣いてるの?」
「…ボク、男なのに女みたいな見た目だって皆一緒に遊んでくれないんだ」
「君、きれいだもんね」
「!!キミまでそんなこと言うの!?見ず知らずなのに何でそんなこと言えるのさ!」

 僕の言葉に少年であろう彼は叫ぶ。それに対して僕はため息を吐いた。「分かるわけないじゃん、他人だもん。だからこそ、君が僕につらいことかなしいこと話してくれないと僕は分からないよ」その言葉に少年はう、と詰まる。

「……話して、聞かせて?君の名前は何ていうの?」
「…亜風炉、照美」
「亜風炉かあ。じゃあ亜風炉くん、君は女みたいな見た目だって皆一緒に遊んでくれないから、どうしたいの?」

 僕の言葉に亜風炉くんはその綺麗な赤い瞳を地に落とす。「一緒に、遊びたい」そう囁くように言われた言葉に僕は目を細めた。なんだ、強がって虚勢張るだけの少年かと思えばちゃんと自分の心をさらけ出すことができるみたいだ。

「一緒に遊びたい!皆と一緒にサッカーやって、笑って、普通の男の子として皆と笑いあいたいんだ!」
「それなら、今の気持ちを『皆』に言えばいいんだよ」

 そう言えば亜風炉くんは目を見開いた。そんな、むりだよ。という言葉が彼の口から漏れ出るのと同時に僕は彼の手を握りしめていた。女である僕のそれとは少し違う、子供とはいえ少年と少女の差が出始めている手。僕と同じくらい白いその手をきゅっと握って僕は彼に背一杯の笑顔を見せる。

「今の言葉を聞いた僕は言えるよ……亜風炉くん、一緒に遊ぼう?」

 瞬間、彼の顔は破顔した。


 いつの間にか在ったサッカーボールを蹴りあって、二人でミニゲームをする。サッカー初心者とは言え亜風炉くんのプレイにはキレがある。将来、これはきっと有能な選手になるのだろうな、と思った。

「それ!」

 亜風炉くんの蹴ったボールが僕の横を通り過ぎて、草で作ったネットに入った。「やったあ!ゴールだ!」年相応にはしゃぐ彼の横で僕も微笑む。「やったね、亜風炉くん」その言葉に亜風炉くんは僕に抱き着いてきた。
 やった、やったとはしゃぐ亜風炉くんは此処が夢の中ということを知らないのだろうか。そろそろ目覚めるときが来たようで、僕の頭はゆらゆらと揺れていた。

「亜風炉くん、そろそろ起きる時間だよ」
「え?」
「此処は夢の中だもの。僕に言ったみたいに、皆とお喋りするんだよ」

 そう言えば亜風炉くんは少し悲しそうな顔をした。どうしたの?と問うと彼はもう玲音には会えないのかな、と呟いた。その言葉はもうすでに僕の事を友達と認識していて、思わず口元が緩む。

「大丈夫だよ。亜……照美」
「!玲音、いまボクの事名前で…」
「君の名前はテルミ、でしょう?それって英語にするとTell meっていうんだ」

 僕の言葉の意味が分からないような照美くんの手を握って出来るだけ優しくなるように、微笑む。

「僕に教えて、って意味さ。照美が僕に君の名前を教えてくれたから、君の想いを教えてくれたから僕は君の気持ちが分かった。だから、君が心を開けば誰にだってその思いは伝わるよ」
「…うん、ありがとう玲音。キミはボクのいちばんのともだちだよ」

 照美の言葉に自分の顔が破顔するのを感じた。目覚める直前に感じた、頬への暖かな感触は気のせい、だったのだろうか?

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