Boy of the flask drama | ナノ


▽ 現実イロニー-4


 誰もが逃げようとしていた。魔物に襲われていたパーティは比較的大きなものだったようで、そのパーティの人間は滅多切りにされてその命を落としていた。フォームが悲惨な光景に思わず剣を取りそうになったときに扉のほうから悲鳴が聞こえた。悲鳴を上げた男は何度も扉を蹴る。それでも開かない扉にまた男が上げた悲鳴に魔物が反応した。

 その鋭い瞳がフォームたちを射ぬいていた。その瞳の中に、フォームは哀しみと怒り、そして憎悪の色を見た。何故か魔物たちを嫌う気になれなかった。沢山の人間が殺されたというのに、フォームはその魔物たちに愛情を感じていた。

 周りを見れば、誰もが扉の前に集まって逃げようとしていた。フォームと、今やっとフォームが気付いた少年だけは逃げていなかった。
 主人公は、魔物を、そしてフォームを見つめていた。その手に剣を構えて、まだ漆黒の服を纏っていない少年はその瞳に狩りの色を宿らせて。少年が剣を構えなおしたとき、フォームは思わず目を閉じた。

『――パパ、ママ…!』

 その声は悲痛に響いた。誰もその声を聴いていなかった。少年に、キリトに加勢した人間たちは鳴き声を上げる魔物たちを擁護しようとさえしなかった。否、彼らは魔物が上げる謝罪の声が、懇願の声が、父と母を呼ぶ声が、子供を呼ぶ声が、友を呼ぶ声が聞こえていなかった。魔物の中で特に小さい、青い瞳の魔物が微かに、フォームに手を伸ばしたのを見た。フォームが手を伸ばすのと、キリトがその魔物を貫くのは同時だった。

 輝き、散って行った光の粉。その場に膝をついたフォームを人々は見ていなかった。混雑した世界の中で、歓声を上げる人々の中で、フォームは理解した。――私は、魔物の声が聞こえるのか。
 そして、まだ微かに残っていた輝く粉に指を這わせ、消えた光を握りしめるような手の形を取り、そして感じた。――私は、魔物を魔物と思えない。

 手を伸ばしたように見えた、魔物の姿が瞼の裏に焼き付いていた。何故かその姿が、自分の姿に重なった。何故だろう、魔物は生きていないはずなのだ。魔物は生きていない。喋らない。ただのコンピュータープログラムだ。なぜだろう。あの魔物たちは今までフォームが殺してきた魔物たちと同じだったのに違った。生きていた。感じていた。泣いていた。そしてフォームは小さく呟く。

 私は、気づかないほうがよかったことに気付いたのではないか?



現実イロニー+終

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