終わるなんて言わないで
アスベルinTOA
夜、ふいに意識が浮上したアスベルはぼんやりとしたまま視線をさまよわせた。
隣のベッドを見ると、そこで寝ている筈の同室者がいなくて、目を擦りながら体を起こす。
(ルーク……?)
数秒の間ジッと空のベッドを見つめていたアスベルだが、ハッと我に返りベッドから降り、部屋から飛び出した。
レムの塔でルークがアッシュと共に障気を中和してから、アスベルは前にも増してルークから離れないようにしている。
何故か。それは、ルークの解離が進んでいるから。
いずれ、消えてしまうと診断されたから。
(ルークが、消える)
アスベルは諦めた訳ではない。
ルークを救う方法がある筈だと信じているのだ。
ルークを探して歩いていると、ふと、廊下に人影を見つけた。
窓から入ってきている月光を浴びているその人物は、アスベルが探している同室者。
「ルーク」
名前を呼ぶとルークの肩が揺れ、そして翡翠の瞳がアスベルをうつした。
ルークを見つけたことに、ルークの瞳が自分をうつしたことに安堵し、アスベルはそっと息を吐く。
こんな所でどうしたんだ?と聞くと、ルークは困ったような笑みを浮かべ、ぽりぽりと頬を掻いた。
「なんか寝れなくてさ」
ごめん。と謝るルーク。
そういえばいつからだろう。ルークがよく謝るようになったのは。と、アスベルは考える。
髪を切ってからルークは常に相手の表情をうかがうようになった。
少しでも悪いことをしてしまっただろうかと考えると、ごめんと謝る。
彼をこうしてしまった原因は周りにあるのだろう。
「あ、あと少ししたら部屋に戻るからさ」
アスベルは先に戻っててくれ。そう言ってルークは片手を背中へ隠すと、一歩二歩と後退した。
ルークが、月光が届かない、暗闇の中へ。
瞬間、アスベルは目を見開き、一気に距離を詰めるとルークの腕を掴んだ。
ルークが隠した方の腕だ。
見てみると透けている訳でもなく、ルークの腕はそこにあった。
だがアスベルは見逃さなかった。
その己の腕を見て安堵の表情を浮かべるルークを。
(ああ…)
それだけで分かってしまう。
ルークの腕は確かに透けていたのだと。消えかけていたのだと。
ルークはジェイドに言われ、極力超振動を使わないようにしている。
だが、だからといって彼の解離が止まるという訳ではなくて。
(ルークが、消える)
気がつくとアスベルはルークの腕を引き、己の腕の中に閉じ込めていた。
「あ、アスベル?」
どうした?とわたわたと手を動かしているルーク。だがアスベルはルークを離さない。逃がさない。
ルークが消える。
死にたくない、死にたくない。そんな思いを抱えながらも障気を中和して。
無事な可能性は無に等しくて。だけどルークもアッシュも無事で。
それなのに、ルークは消える。
何も残さずに消えてしまう。
死ぬのではない。消えてしまうのだ、ルークは。
そんな、こと。
「ルーク」
「な、なんだ?」
「絶対に、諦めないからな」
だから、そんな、諦めたような笑みを浮かべないでくれ。
-END-
ルークが消えてしまうと分かり、焦ってもやもやしてるアスベルを書きたかったんですが……
あるぇえええええええ
お題配分元→確かに恋だった
2013.03.23.黒太郎
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[mokuji]