「格好いい人って、大人になっておじさんになってもきっと格好いいんだろうね。ね、シリウス」

「知らねぇよ」


たまたま席が隣になったシリウスにそう話し掛けるが、態度は素っ気ない。かっこいい人がそういう口調すると怖いよね。わたし嫌われてるのかな?って思うよね。

私はシリウスブラックをあまり良く思っていない。というよりぶっちゃけ嫌いな部類だ。来る者拒まず去るもの追わず、そんなプレイボーイな性格がまず無理。


「シリウスもきっと素敵なおじさまになるね」

「そんな先の事分かるわけねぇだろ」


テメェこのやろう下手に出てりゃ良い気になりやがってふざけんな。来る者拒んでんじゃねぇよ。

ああだめだめ、私はか弱い女の子設定。まるであなたのファンですとでも言いたいように振る舞わなければ。別にファンじゃないけど。


「ね、シリウス……」

「あのさぁ。話し掛けんなよ、寝れねぇだろ」

「あっ、そ、そうだよね。ごめんね」


なにこの人超ムカつく!自分の立場がそんなに上だと思ってるわけ?うわぁ、無理。こういうやつ超嫌い。

私もやめりゃいい話なんだけれど。それでもやってしまうのは、しょうもない目的があるからなのだ。
まぁそれも普段悪戯ばっかりしてる奴の、主にイケメンの顔が歪む姿を見たいってだけ。


「……なぁ」

「えっ?な、なに?シリウス」


次はどう話し掛けようか悩んでいたところに、意外や意外。まさかシリウスブラック本人から声をかけられて割と本気で驚いてしまった。寝るんじゃないのかよ。


「俺の前だからって猫被ってんじゃねぇよ。そういうの一番ムカツク」

「は?」

「女って皆そうだよな。普段そんな声出さねぇクセにいきなり態度変えて猫撫で声。相手してやる身にもなれっつの」


え、なんなの。何でわざわざ私の時にそういうこと言うの。本気で猫撫で声してる人に言えばいいのに。
こちらも意図してやっていた事とは言え、カチンときてしまった。ふつふつ沸き上がってくる怒りを沈めようと、ひくつく口元を隠すように俯く。


「そうやって、泣くんだろ?メンドクセー」


どうやら涙を堪えているように見えたらしい。怒りでわなわなしているお陰で震える身体。
こりゃどう見ても泣くの我慢しているように見えるわ。ははは。

ていうか、これは考え方を変えればシリウスブラックを騙しているということになるのでは?そう思うと怒りが笑いに変わって肩が震えた。でも、何はともあれ


「……超ムカツク」


思わず口から言葉が出てしまった。特に抑えることのない声量で言ったので、これは100パーセント、シリウスブラックに聞こえていただろう。顔をあげると案の定怪訝そうな顔をしていた。


「泣いてるとでも思った?おあいにく様。あなたみたいな人に見せる涙は一滴もないの」

「お前、泣いたフリしてたのかよ?性格悪」

「フリなんて一切してないけど?あなたに対する怒りと笑いで震えてただけよ。それを勝手に"泣いている"と勘違いしただけ」

「どうせ授業終わって部屋戻ったら泣くんだろ」

「あなたって自意識過剰ね、そんなに自分が最高の男とでも思ってるの?……ああごめんなさい、思ってるんだったわね。でも残念、顔だけじゃ人生やっていけないわよ」

「テメェ……!」

「そこの二人!!授業に集中しないのであれば出ていきなさい!!」


先生の注意する叫びにようやく終わる口喧嘩。すみません、と謝りシリウスを軽く睨みつける。減点されないだけまだマシかと思いながら授業に集中することにした。


私はやっぱり、この男が嫌いだ。

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