「僕の美貌が眩しすぎる」
「黙れナルシスト」
「ナルシストじゃなくて、自負しているんだよ。君には…………ふっ、わからないだろう」
「オイ今私の顔見て笑ったな?笑ったよな?」
「まさか」
この男、トム・マールヴォロ・リドル。スリザリンの監督生で学年主席、これで分かるように、頭がとても良い。そして顔もいい。ホグワーツの女の子達によると「トムの瞳で殺されたい」らしい。一体どうやってそんなことをするのかは謎である。
そんな彼は今の今まで、女の子達にホグズミードに一緒に行こう、と誘われる誘われる。かっこいいって大変だね。
「て言うか、なんで断ってるの?可愛い子いっぱいいるのに」
「それ、わかってて言ってる?」
「……知らない」
「はいはい」
トムと私は所謂恋人。平々凡々な私と何故付き合ってくれているのかは、わからない。トムの考えはいつもいつもわからない。
先程も言ったが、私は平々凡々。なんの変鉄もない女子生徒の一人で、特別に可愛い訳でもないし、ずば抜けて頭が良いわけでもない。得意な事もあれば不得意な事もある、一介の生徒でしかない。
だから、私とトムが付き合ったと知れ渡った時は皆驚き、そしてトムを好きな子は彼を諦めるなんて事はしなかった。
「みんな必死にトムを私から離れさせようとしてるね」
「うっとおしいくらいだよ」
「それ女の子達が聞いたら泣いちゃうよ」
「君にとっては好都合だろう?」
「……わかんないよ、そんなこと」
「……名前?」
トムはいつも余裕で、私がどれだけ悩んでるかなんて知らない。ホグワーツでも特別な存在のトムとただの生徒の私とでは吊り合わない。私の事を妬んで呼び出した女の子もそう言っていた。そんな事わかっているのに。
「トムは皆の"特別"なんだよ?私だけが独り占めして、ずっと一緒にいるなんてそんなこと」
「出来ない?どうしてだい?君にとって僕は特別じゃないの?」
「特別だよ!でも、私は、トムみたいに特別な子じゃない」
自分で言っていて悲しくなってきた。私はどうしても、トムの彼女でいる自信が無い。
「僕にとっては君は特別だよ」
「……でも、みんなにとって私は」
「皆に、認めて欲しいの?」
……認めて、欲しいのかな。
「よし、じゃあ名前。ホグワーツを卒業したら結婚しようか」
「………………は!?」
トムの口から出たとんでもない言葉。
「僕の推測からして、皆は僕が君のことをからかってとか、脅されてとかで仕方なく付き合ってるみたいな考えを持つ奴が多いらしい。ということは、結婚してしまえばこれは解決。そして君の不安も無くなる」
開いた口が塞がらないとはこの事だ。ちょっと意味がわかりかねる。
「それ、本気で言ってるの?」
「ああ、勿論。冗談でこんなこと言わない。いいだろう?僕は君を心の底から愛してるんだから」
本当に、この男は。
得意気に笑うトムの姿を見て、悩んでいた自分が馬鹿馬鹿しく思えてきた。
「受けてくれるかい?」
「ふふ、もちろん。よろしくお願いします」
私達は笑いあった。
きっと、私はトムの側から離れることはないだろう。
もし彼が闇に堕ちたとしても。
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