01 == == == == == 「ウタ、少し休憩したら?」 店の奥から出てきた夢叶。 その手には2つのマグカップがあった。 「んー、あと少ししたら……」 修理を頼まれたマスクに向かうウタ。 その目の前に珈琲を注いだマグカップを差し出す。 「中途半端で中断した方が再開しやすいんだって」 「強引だなぁ、夢叶…」 しかし道具を手放し、代わりにマグカップを受け取った。 「……うん、やっぱり夢叶が淹れた珈琲は美味しい…」 「頑張って蓮示から教わってきたんだもん」 正確には技を盗んできたのだが。 不愛想で不器用な蓮示は他人に何かを教えるのは向いていない。 「へー、蓮示くんにねぇ……初耳…」 少し低くなった声に夢叶はウタを見上げた。 「イトリさんのトコに通ってるとしか聞いてなかったけど…」 ひょい、とマグカップを取られ、その2つは作業台に置かれた。 「ぼくの目を盗んで蓮示くんのトコ行ってたんだ…」 「い…いや、珈琲の淹れ方教えてもらってただけだよ…?」 本能で危険を察知し、せめてもの弁解をする。 「聞かれる前に言うのは嘘ついてる可能性があるんだって…」 夢叶は墓穴を掘った……と内心頭を抱えた。 こうなってしまうとウタは相当根に持つ。 「ぅ…ウタが蓮示の珈琲が美味しいって言ってたから! 不愛想な蓮示に睨まれながら練習してきたのに…!」 あれは中々に精神的につらい時間だった。 睨んでいるつもりはないのかもしれないが、蓮示は目つきが悪い。無言で威圧的に見られているのは苦痛だった。 「…ぼくのため?」 「そうだよ!悪いっ!?」 自棄っぱちで言えば、ウタの手が頭に乗せられた。 「そんなこと言われたら、怒るに怒れないな…」 よしよし、と頭を撫でられた。 子供扱いされているようで少し嫌だった。 「ぼくのためなら仕方ない……うん、嬉しい」 椅子に座り、膝に夢叶を導く。 後ろから優しく回った腕に、機嫌を損ねずに済んだことを知る。 「蓮示くんの珈琲も好きだけど、夢叶は夢叶でいいと思うよ…。 ぼく、夢叶がくれるものなら何でも嬉しいから……」 ((隣にいる人に美味しいと言ってほしくて)) == == == == == == == == == == 「それから、あんまり蓮示くんに近付いちゃダメだよ…」 「?どうして…?」 「蓮示くんはムッツリだから」 「ムッツリ…?」 「兎に角、気を付けてね…」 「分かった!」 | → |