我が騎士になるべき君よ == == == == == 若くしてその才覚を国内外に響かせていたシュナイゼル。 専任騎士を命じる条件が揃うや否や、誰が命じられるのかと貴族や軍部は浮わついていた。 第二皇子に見合う騎士は大勢挙げられたが、こういうことは次第に絞られていくものだ。 しかし、常に最有力騎士候補と名が上がる者がいた。 レイシー・ミリアム ブリタニア有数の大貴族の息女にしてシュナイゼルの幼馴染みであり、男性顔負け、寧ろ負けっぱなしの武勇。 ほとんどの者が、彼女が就くのだろうと思った。 だが、シュナイゼルはそうしなかった。 いや、……できなかった。 レイシーが病に倒れたからだ。 体は常に激痛に苛まれ、次第に動かなくなっていく病。 レイシーの体は誰も知らなかっただけで、すでにボロボロだったのだ。 耐えきれずに露見した病状は酷く、彼女の死はそう遠くないものと約束されてしまった。 貴族たちはこぞって次の候補の予想をしていたが、結局誰も選ばれることはなかった。 「レイシー、もう起きていることも辛いのかい?」 時刻は昼前の11時。 朝のバイタルチェックなどの時は起きているため、眠ってしまったのだろう。 最新の医療機器ばかりが置かれたその部屋はとても無機質で、顔色の悪いレイシーからさらに生気を奪っているように見える。 ほとんど常にと言っても過言でないほど、毎日彼女の細い腕に刺される注射針。 変色した痛々しい肌を見ていると、点滴の針を抜いてやりたくなるが、それが彼女の苦しみを和らげる鎮痛剤を打っているから実行にも移せない。 簡素な椅子を引き寄せて座る。 「このひと月大変だったよ、レイシー」 意識のないレイシーに、語り掛ける。 「君がいてくれたなら、と毎日のように考えるよ。 ねぇレイシー」 何度も名を呼びその存在を求めた。 するとレイシーの睫毛が揺れた。 「レイシー?」 虚な視線がこちらを向いて重たい目蓋を震わせ続けている。 「……でん…か?」 漸く相手を認識したようた。 「おつかれ、さま、です。 でんか」 レイシーは最近、めっきり私の名を呼ばなくなった。 シュナイゼル様の八音と、殿下の三音なら、後者の方が楽なのだろう。 それは理解するが、少し寂しいのは否めない。 「頑張っているのは君の方だ。 私のせいで無理をさせてすまない」 彼女はすでに自ら死を選べる状態、つまり助かる見込みのない病人。 『私の心の整理ができるまで、もう少し待ってくれないか』 レイシーはその願いを聞き届けてくれた。 そしてシュナイゼルのもう少し、はもうすぐ3年の時が経とうとしていた。それだけの苦痛を、強いてきた。 人工呼吸器の奥で僅かに広角が上がる。 「やくそく……でんかの、ねがい、わたしが、すべて、かなえ、ます」 そうだ、レイシーはかつて誓った。 『シュナイゼル様の願いはすべて、私が叶えましょう』 約束通り、時間をくれた。 最期の時の選択、命をくれた。 彼女のそんな姿を見る度に、シュナイゼはやるせなさに襲われる。 レイシーは何もかも差し出して尽くしてくれた。 だが自分は彼女に報いることができただろうかと。 「では、……これからも私の傍に居てほしい」 ((レイシーは曖昧に微笑んだ)) == == == == == == == == == == 「カノン、レイシーは?」 「最近は容態が安定しないようですわ」 「……どうしてレイシーなんだろうね」 「レイシーが聞いたら怒りますわ。自分以外ならいいのかと」 「レイシーらしいね。だが本心だよ」 | → |