夢にまでみる == == == == == 美しいばかりの庭園で戯れる。 レイシーと。大切な人と。 「シュナイゼル」 「レイシー」 名前を呼び合って、微笑んで。 そんな幸せに満ちた日々。 でもそれは幻。 叶うことのない夢、願望。 「……、」 瞼の重みを数度の瞬きで取り払う。 「あぁ殿下、お目覚めですか?」 その声に顔を上げればショールを持つレイシーがいた。 「折角お持ちしましたのに」 使われますか?と差し出されるショールは、今年の誕生日に贈ったものだ。 「私は…寝ていたかい?」 「5分ほどですよ」 僅かとは言え、職務中に居眠りしていた自分に驚く。 「お疲れですか? それとも何か悩み事でも?」 レイシーの柔らかな瞳に自分が映る。 「君と……」 言いかけて止める。 幸せな夢を見ていたなんて言えない。 「?私が何か?」 「いや、何でもないよ」 「何ですか、どんな話でも笑ったりしませんよ」 何でもないよと誤魔化す。 「まさかレイシーにこんなところを見られてしまうとはね、主失格だな」 「いいえ。 私は嬉しいですよ。 殿下の色々なお顔を拝見できて」 自分に決して嘘や誤魔化しなどしない騎士の言葉。 「まったく…… レイシーも大概、人をたらし込めるのが上手だね」 「殿下には及びませんわ」 微笑む武の副官。 「あら、またレイシーを口説いてらっしゃるんですの?」 そこへ文の副官がやってきた。 「誤解だよ。ねえ?レイシー」 「ええ。カノンは邪推がお好きですこと」 こうして歳の近い者が集まるとどうしても空気が緩む。 「レイシーはそろそろ休憩しておいで」 ずっとそばに侍っていたであろうレイシーを退室させる。 コーネリアのような皇族の騎士なら、戦場をKMFで駆けることも多いが、シュナイゼルはそこまで前線には出ない。 実働なんてたまの戦争指揮について行くか、警護くらいのもの。 武を磨いた騎士を持て余すにも程があった。 主として不足を感じさせていなければいいが、と毎日のように考える。 「それで、どうなさったのです? そのように物言いたげなお顔をされて」 カノンに指摘され、ため息をつく。 「……そんなに顔に出ているかい?」 いつも同じ時間に休憩を取らせているレイシーが促さないと退室しないほどに。 「またレイシーのことで何か?」 カノンは知っている。 シュナイゼルがレイシーに抱いている恋情を。 それがかなり昔からの、とても純粋なものであるとも。 「…全部違っていればと思っていたんだよ」 ポツリと呟くように言われた言葉に、流石のカノンも真意を計りかねた。 「私が皇子ではなく、レイシーも貴族ではなければ、もっと簡単だったのかと考えていたんだ。 ……愚かしいだろう?」 カノンはゆるゆると首を振った。 「でもそれではお二人は出会うことすらできませんでしたわ」 「だから愚かしいと言ったろ?」 シュナイゼルが皇族で、レイシーが皇宮に仕えられる身分の貴族であったから出会うことができた。 ただびとであっても同じように出会えたなど、都合が良すぎる。 「そんなに好いておいでなら、どうして騎士になさったのです? 長年抱いていた疑問をぶつけてみる。 「……約束をね、したんだよ。昔」 今でも鮮明に思い出す。 見習いとして宮殿にいたレイシーが自分に誓ってくれた言葉。 「私を守れるくらい強くなるからとね、言ってくれたんだ」 おおよそ女性が男性に言う言葉ではなかった。 だが実際、レイシーは皇族の騎士に相応しい力を身に付けていった。 だからシュナイゼルも約束を守った。 本当に欲しいものは違ったけれど。 レイシーに気付かれないよう無理して笑った。 「私はレイシーに守ってもらえる立場であることを誇りに思っているよ。だが……男としてはそうはいかないんだ」 == == == == == == == == == == 「殿下をお守りできるくらい強くなりますっ」 「レイシーが…?うーん……君は女の子なのだからもっと…」 「いいえっ、私は強くなります!だから殿下の騎士にしてください!」 「……分かったよ。でももしレイシーに騎士になれる力がなかったら、 ……私のお願いを聞いてもらうよ?」 | → |