罰を求めて == == == == == 人は誰しも生きるための熱を持っている。 「入るよ悠」 ノックに返答がないため、仕方なく一言断りを入れて扉を開ける。 部屋は暗く、切り裂かれたカーテンから差し込む光でなんとか部屋の惨状が見てとれた。 様々な物が投げ散らかされ、ひっくり返されて割れている。 そして部屋の隅から聞こえる嗚咽。 光の届かないそちらに進んでいく。 散らばっていたらしい破片がパキリパキリと割れる。 感じる気配の前に屈む。 次第に目が慣れてくる。 この部屋を与えている少女が膝を抱えて泣いていた。 「ごめんなさい…ごめんなさい……ごめん、なさい」 そう言って手に持った壺の破片を腕に押し付ける。 「もう止めなさい悠」 細い腕を捕まえ、破片を取り払う。 「どうして君たちはそう自罰的なのだろうね」 少女を抱き上げ、縮こまった背中を優しく撫でる。 扉の方に歩いていけば、傷だらけの肌が露になる。 至るところに生々しい裂傷があり、血の流れた痕や服の染みとなっている。 「っ、ぃや…! 血っ……いやっ、怖い……!ごめんなさいっ」 自らの腕や手の平の赤を見て取り乱す。 「悠、落ち着きなさい。 ……悠」 暴れようとする悠の頭を自身に軽く押し付ける。 「怖いなら目を瞑っていない」 荒い息を吐いている背をさする。 「大丈夫、誰も死んだりしないよ。 ……君が大人しく手当てされてくれればね」 そして彼女は、祖国を侵略した国の皇子の懐で意識を失った。 「また例の、ですか?」 自身の服を見て眉をひそめる副官。 先程送り届けた悠の血が染み付いていた。 「あぁ」 すぐに新しい服が用意される。 「彼女は優しすぎるんだよ」 何事かとこちらを見上げるカノン。 「幼くして父君の死を目の当たりにしたとは言え、自分を守るために人を殺したことに感じる罪悪感が強すぎる」 「……それで殿下はどうなさりたいのですか?」 悠を保護して8年、何もせずただ見守っていた。 それなのに、変化が訪れた。 悠の兄、枢木スザクがシュナイゼル直轄の特派所属となった。ランスロットのデバイサーとして。 「今は何も。 記憶を弄ってあげられたら楽なんだろうが、特定の記憶を改竄することはできないし、負担が大きいからね」 その技術があれば、迷うことなく施す。 そんな確信が長年仕えるカノンにはあった。 部屋を出て、悠が眠る病室に入る。 「……面白いと思わないかい?」 「面白い、ですか?」 傷だらけの腕には点滴の針が刺され、青白い顔で眠る少女。 「死に場所を求めるように戦う兄と、血を恐れながらも自らを罰し続ける妹。 彼らは生きるためにあるべき熱を、死ぬことに向けている。 その矛盾がとても興味深い」 == == == == == == == == == == 「血液恐怖症なのに自傷行為ですか…」 「変わった子だろう?」 「ええ本当に」 ← | → |