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レイシーの一日は長い。


軍部の者を除けば、彼に仕える人間では1番の早起きだろう。

それもこれも、主君であるシュナイゼルが帝国随一の働き者……いや、宰相故に多忙であるからだ。




手早く仕事モードに切り替えて、少しの遅れとミスも許されない仕事に取りかかる。










掃除洗濯、他の使用人への指示などなすべきことは多岐に渡るが、何よりもまずは朝食の準備。

普通なら専属の料理人がすべきだし、その役職の者はいるのだが朝は特別だ。




「朝はレイシーの手料理が食べたいな」

十年も昔の言葉だが、それに首肯したが最後、今の今まで朝食を作らされるはめになった。





以前専属料理人に作らせ出してみたがすぐにバレた。

品の良い彼が食べ物を粗末にすることなんてないが、暫く小言を言われ続けた。

男のくせに女々しくも根に持つので厄介だ。



そうして仕込みをし、主君の私室へ行く。

どういう体内時計をしているのか知らないが、どんな激務の後でもきっちり起きてくる。

起こさなくても起きているのに、「起きてください」と言わないと動こうとしないし、着替えも手伝わされる。

いい歳した男が…とは思うが主君だから仕方がない。



「殿下、お時間ですよ。
起きてください」


すると金糸の隙間の薄紫がこちらを捉える。

「おはようございます、殿下」

「あぁ、おはようレイシー」

その長身がキングサイズのベッドから起きてくる。

上半身裸でいる主君にさっさとローブを着せ、鏡の前に座ってもらう。


「君はいつ見ても隙がないね」

「仕事中ですから。殿下も支度くらいご自分でなさってみては?バトラーもつけますから」

本来なら執事が使用人を取り仕切るのだが、ここではシュナイゼルお気に入りのレイシーが権限を持っている。






「それでは1番に会うのがレイシーでなくなってしまう。
起きて最初に見るのが男では気乗りしないだろう?」






こんな訳の分からないワガママのために、ただでさえ忙しい朝の時間を主君に費やすことになっているのだ。

他のメイドにさせてもいいのだが、この男のおてつきの早さがレイシーの仕事を増やす一因だ。

宰相としての働きぶりは尊敬しているが、その女性関係にはほとほと呆れている。


「母が殿下にどんな教育をしたのか疑いますわ」

母はシュナイゼルの乳母で先代のメイド長だ。

レイシーとシュナイゼルは幼馴染みで気心知れた仲であり、"そういうこと"にもならないためこういう仕事まで舞い込んでくる。



もし自分に関係を迫るようなことがあれば、その時が辞表の突き付け時だと思っている。



「レイシーの母君は本当に厳しい女性だったよ」

「殿下を見ているとそうとは思えませんがね」

レイシーの知る母は本当に厳しい人だった。

若くしてメイド長になれるほどに礼儀作法を叩き込まれた。


「さ、終わりましたよ。
朝食はこちらで?」

「あぁ、頼むよ」

身支度を整え終わると、手を取られる。

「……うん、今日もレイシーの手料理が食べられるようだ」

犬か何かのようにカフスを嗅いでにっこり笑う。

レイシーには分からないが、それでわかるらしい。




「また小言を言われては堪りませんからね」


溜め息をつき、扉の外で何事かないかと耳を立てているメイドたちに食事をお運びするよう指示をするのだった。




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「今日も素敵な朝食をありがとう。これで1日頑張れるよ」
「お褒めいただき光栄です。それでは殿下、私は仕事がございますので」
「他の者に任せればいいだろう?そこにいてくれないか」
「メイド長が食事を眺めているだけでは他に示しがつきません」
「お願いだよ、そう時間は取らせないから」
「……分かりました。そうお急ぎにならなくても結構です」
「ありがとう。あと笑顔もつけてくれると嬉しいな」
「なんとワガママな……」


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