Kiss of oath



「おまたせ!」
「おっそいねん、なんぼ支度に時間かかっとるんや」
「女の子は支度に時間かかるもんやねん」
「お前は時間かかりすぎや」


今日は光と久しぶりのデート。最近は休みの日も忙しかったから、二人休日を過ごそうというのはいつぶりやろ。


一緒に住んでるから毎日顔は合わせるのだけど、こうやってお互い粧し込んでいるのは久々だからすごく新鮮。


「相変わらずケバいわ」
「大人っぽいって言ってくれる?服装なんか昔に比べたらえらい落ち着いたで!メイクかて少しは薄くなったんやで?巻き髪好きは変わらんけど」
「まあ確かに。ギャルやったころよりは今のが断然ええわ」
「そういうあたしも好きやったくせに」
「うっさい、早よ行くで」
「あ、運転光に任せるで?」
「当たり前や、俺のが安全運転やしな」
「いぇーい」


めずらしく優しいからお礼にチューしたろ思って抱きついたら、やかましいてど突かれた。相変わらず冷たい奴や。ま、そんなとこもラブやねんけどな。


そして光の運転で目的地へ着き、ランチをしたり、二人で久しぶりにショッピングを楽しめた。


帰りの時間になると、光が行きたいとこあんねんって車を走らせた。どこやろ?もう陽も落ちて空は暗い。夕飯まだやしどっか美味いもんでも食べに連れてってくれるんやろか。そんなことを考えとる内に、目的地に到着。


「ここって…」
「俺らの母校やろ」


光の行きたい場所とはあたし達の母校、四天宝寺中のことだったみたい。あたしと光が出会ったところ。付き合いはじめたのも中学のころ。


「なんで中学?もうこんな時間やから中入れんし誰もおらんやろ」
「ここじゃなきゃあかんねん。早よ行くで」
「え?せやから入れるような場所ないで?」
「オサムちゃんから合鍵借りとるから心配ない」
「なんでオサムちゃん校門の合鍵なんか持っとんねん。てかまだ四天宝寺の先生やったんや」


いくつか気になることあるけどまあそれは置いといて、あたし達は校門の鍵を開け中に入った。


「わー!なつかしい!変わってへんしー!」
「せやな、三年間なまえがイキっとった場所や」
「イキっとったとか言うなや、あたしの黒歴史や!」


わーわー騒いでたら、光にご近所迷惑な奴やな、と言われたから少し黙ることにした。


「ねぇ、さすがに校舎は入れんやろ?」
「校舎はな。こっち着いてきて」
「こっちなにがあったっけ?」
「テニスコート」


テニスコートと聞いて、先程よりもなつかしい感情に覆われた。光が仲間達と青春を過ごした場所のひとつ。あたしはというと、練習試合していた光をたまたま見かけて、一目惚れしたんだった。目が合ったときはうれしすぎて発狂するかと思ったもん。


このテニスコートが、お互いを認識した本当の出会いの場かもしれない。


「ちょっと打てるかと思ったけど、ラケットとか部室に全部しまわれとるな」
「残念やね」
「なぁあそこのベンチに座らん?お前ずっと高いヒール履いとって疲れたやろ」
「うん、そろそろ足痛い」


そう言うと、光が黙って手を差し伸べてきた。ちょっとドキッとしたのは内緒。そのまま手を握り、コート内のベンチまで行って腰を掛けた。


「こうしとるとほんま懐かしいなー、イチャイチャしにくると、よく光がラケットであたしのことど突いてたん思い出すわ。ほんまめっちゃ痛かったであれ…」
「練習中にイチャつきにくるお前が悪い」
「ちゃんとオサムちゃんと白石部長の許可取ってたんやで?」
「なんでそんなん許可してんねんあの人らは」


他愛もない懐かし話しをして、より鮮明にあの頃の光景が蘇ってきた。あたしは部員でもマネージャーでもないのによくここへ来ていて、休憩中のみんなと話したり、部活終了後もあそびに来たりしてた。テニス部にはマネージャーがいなかったから、マネージャーっぽい仕事の手伝いもしたり。みんな仲良うしてくれてうれしかったなぁ。


「なまえ」


思い出に浸っていると、急に光に名前を呼ばれた。光の方へ振り向くと、顎を軽く掴まれ、触れるくらいのキスをされた。


「ど、どないしてん急に」
「はじめてキスしたんもここやったなぁって」


これもまたなつかしい。はじめてキスした場所ってここだったっけ。誰もおらんテニスコートで、このベンチの上で。ものすごくうれしかったのを覚えとる。光も覚えててくれたんや。


でもあのときは、部室にレギュラーのみんなとオサムちゃんが隠れとったみたいで、あまい余韻に浸っていた中、みんなが出てきて茶化されたっけ。白石部長と健ちゃんは申し訳なさそうにしていて、謙也さんはなぜか恥ずかしがっていて、小春ちゃんとユウくんははやし立てていて、オサムちゃんと千歳さんはニヤニヤしていて、銀さんは金ちゃんの目を隠していた。あぁなつかしい、今でも鮮明に覚えている。


「なまえ、これ見て」
「え?」
「左手」


テニスコートに向かうときからずっと握られていた左手を離されそこに目をやると、キラキラ光る指輪がはめられていた。


「指輪?」
「婚約指輪」
「婚約指輪かぁ、って、え?」
「アホみたいな声出すなや、ムード台無しになるやんけ」


婚約指輪ってことはさ、この後、あれやんな?言われるやんな?やばい、うれしすぎてもう泣きそう。


「なまえ、俺と結婚して」


やば、めっちゃうれしい。涙腺崩壊や!涙と嗚咽のせいで、返事したいのにうまく言葉が出てこない。あたしは返事を言葉にする代わりに何度も頷いた。


「そんな泣くなや」
「だ、だって」
「愛しとるで、なまえ」


そう言われると、今度は先程よりももっと熱の籠った、誓いの口付けを交わした。




Kiss of oath
(彼女と出会ったこの場所で)
(永遠の愛を誓いたかった)
(やさしい表情の彼がいつも以上に愛おしく感じた)



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