花魁道中



俺には中学のころから付き合ってる彼女がいる。そ頃から少し派手な子やけど、中学と高校の頃、俺と付き合うてるということだけで嫌がらせされたりもしたんやけど、全員片っ端からしばいとったわ。そういう気の強いところも好きのひとつや。ちょっとやり過ぎな所もあるけど。


でもほんまかわええ子やねん。見た目が少し派手やから、なまえの性格の良さに驚く人も多い。強気な性格やけど、俺にしか見せない女の子な部分や表情もたまらんほど好き。


ほんで今日は土曜日で、学校も休みやし、なまえと一緒に成人式で着る振袖と袴を見に行くことにした。


「かわええのいっぱいやん!蔵ノ介はどれがええと思う?」
「せやなぁ、このピンクのやつなんて女の子らしゅうてええんとちゃう?」
「わー!この白黒のめっちゃかわいー!」
「あ、お気に召さなかったんやね」


色とりどりの綺麗な着物がぎょうさん並んどって、なまえは目を輝かせながら好きな着物を選んどる。


「かわええのありすぎて迷うわー」
「せやからこのピンクの…」
「あ、これもええな!青と白と黒が混じっててかっこええ!」
「……」


そうですか、そんなにこのピンクのは嫌やねんな。わかりました。俺もさっさと決めよ。


「決めた!さっき一目惚れしたこの青のにする!」
「なんや、決めるん思っとったより早いな」
「悩んどってもきりないしな。おばちゃーん!これ試着させてー!あ、蔵ノ介これな」


そう言ってなまえは呉服屋のおばちゃんと着付け室へ入っていった。ちなみに俺は青の袴らしいわ。いつの間に選んだんや。青なんは多分、なまえの振り袖が青メインやから揃えたんやろ。お揃い選ぶなんてかわええ奴や!


そして俺も近くにいたおばちゃんに声かけて、試着室へと入った。着てみるとなかなかかっこええ袴やで。着心地や見栄えを確認して、俺は試着を終えて私服に着替えて彼女を待った。


「蔵ノ介!」

なまえの着物姿ってどんな感じやろなぁ、絶対綺麗やねんなぁ、と思いながら待っとったら、なまえの俺を呼ぶ声がした。声の方を振り向くと、俺はなまえの姿を見て固まってしもうた。


「なまえ…」
「どや!かっこええやろ!花魁やで!」
「や、かっこええし綺麗やけど…」


これいっぺんしてみたかってーん!とか言ってきゃっきゃしとる。や、別にええねんけどな?似合っとるし綺麗やし。でもそないに肌露出したらアカンやん!なんやろ、ようわからんけどダメな気するわ!


「なまえちゃんな?花魁はやめとこうや」
「なんでや」
「肩とか胸とか肌出すぎやん!前撮りではしてもええけど、式のときは普通に着ようや、な?」
「もちろん前撮りでも花魁するで?でも式にもこう着ていきたいと思うんやけど。だめ?似合わん?」
「いや、めっちゃ似合っとるしめっちゃ綺麗や。けどな、会場には他の男もおるしなんか嫌やねん」
「夏なんてみんな肌出とるやんか」
「や、それとこれとはちゃうねん。せやから…」
「なに?」


ちょっとムスッとした表情をするなまえに、俺は咄嗟に思いついた言葉を言ってやった。


「俺が花魁のなまえを買うたるから、その姿は俺にしか見せんといて」


そう声色を少し低くして言うと、呉服屋のおばちゃんらの、お兄ちゃんかっこええわー!っていう黄色い声が飛び交う。おおきにです。なまえはというと、少し驚いたような表情から一転、眉間に皺を寄せて、眉毛を八の字にしながら頬を赤らめて恥ずかしそうな顔をする。かわええ奴や。


「こ、買うたるってなんやねん!」
「今、なまえは花魁なんやろ?せやから俺がなまえを買うたる」
「高いで、あたし」
「承知の上や。まぁなまえは俺だけのもんやけどな」
「ちょ、言わんといて!恥ずかしくなるやん!」


ぷんすかしとるなまえを横目で見ながら、俺は自分のとなまえの分の予約表を受け取った。


そして成人式当日。俺は途中、謙也を拾って会場に着いた。式がはじまる前に、俺らは同中やった奴らと懐かし話しや近状報告をしてその場を楽しんだ。なまえは後から行くわ、って言っとったけどまだ姿が見えん。


「きゃー!白石きゅん!袴姿もかっこええ!」
「おー、小春にユウジやないか!って、俺らあんま久しぶりとちゃうけどな」
「せやな、テニス部メンバーはいつも会っとるしな」
「小春!俺の袴姿はかっこええ言ってくれへんのか!」
「だってあたし、謙也くんよりも白石くんのがタイプやもん」
「浮気か!死なすど!」
「それ俺のセリフや!」


中学のころからずっと変わらんなぁ、とか、テニス部メンバー袴率高いなぁ、謙也とユウジも袴やし、小春なんてふりふり付いとるし。小春達のしょーもないコントを見とったら、なまえが俺の名前を呼ぶ声がした。


「遅かったやんなまえー……」
「ヘアメイクに時間かかってしもうてん。遅刻する思っとったけど、千歳達も今から向かう言っとったから乗せてきてもらった!」
「あら、銀さんも一緒やないの」
「みんな相変わらずやな」
「間に合ってよかったけん」


銀、袴姿様になりすぎやん。千歳は絶対スーツやと思ったったけど袴めっちゃ似合うやん、いや、んなことより。


「なまえ!!」
「蔵ノ介!めっちゃ似合うやん!かっこええ!」
「ほんま?おおきに…、ってちゃう!なんやねんその格好は!!」
「なにって……花魁?」
「かわいく首かしげてもアカンで!当日は普通に着ろ言うたやん!」
「せやかてどうしてもこれで行きたかったんやもん」
「行きたかったんやもんやない!風邪も引いてまうやろ!!」
「蔵ノ介うざ!」


なっ、なんやねんこの子は!人の心配を無駄にしよって!


「まぁまぁ、べ、別にええやん白石。なまえらしいやん」
「「謙也は黙っとき」」
「は、はい」


謙也もなにちょっとニヤつきながら顔赤くしとんねん!あーもうみんなあんまなまえのこと見んなや!!


「もう蔵ノ介なんか知らん!みんな行こ!」
「やれやれ、なまえご立腹ばい」
「あたし、なまえちゃんのこと落ち着かせてくるわー。みんな後でな!ほなさいなら!」
「俺も行くで小春!」
「俺らが付いとくけん、白石は心配しなさんな」
「あ、ああ、頼んだで…」


なまえのことは千歳らに頼んで、俺らは四人の姿を見送った。


「白石ぃ、めでたい日に喧嘩すんなやー」
「まぁ心配なんはわかるけどな」
「謙也……銀……。ていうか謙也、自分、なまえの胸見とったよなぁ?」
「え、なっ、べ、別に見てなんか…」
「今もまだ顔赤いやんけ。式終わったら覚えとき」
「か、堪忍してや白石ぃ!!」


俺がスタスタと歩きはじめると、謝りながら謙也が後を追ってきた。銀も謙也に手を合わせながら一緒に追ってくる。


式の間に気持ち落ち着かせとこか。会場でお前の花魁道中しっかり見といたるわ。


そんな姿で会場練り歩いたこと後悔させたるで。帰ったらめっちゃお仕置きしたるかんな、覚悟しとき。




花魁道中
(あいつが動くと必ず男共が着いていくやん)
(ほんまの花魁道中みたいやな)
(今日は口答えできんくなるほどお仕置きせなアカンなぁ)



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