雨が降っとる、気づかんかった。じゃあね、と言われ乱暴に車から降ろされた。知らん場所やなくてよかった。ご丁寧にバッグもちゃんと返してくれたからスマホも財布もある。これだけあれば、無事家には帰れる。鏡をバッグから取り出して、ボサボサになった髪を手ぐしで梳かし、少し崩れたメイクを軽く直した。雨降っとるしあんま意味ないけど。でもどないしよう、下着と靴がない。下着は最悪なくても隠し通せる、けど靴は無理や、どうしたって人の目に入る。あいつらの嫌な臭いも身体から漂ってて吐き気もする。この状態でどうやって帰ろかと思っとったとき、ある人の顔が頭に浮かんだ。


「謙也…」


立ち上がろうとしたらズキズキと身体が痛んだ。近くにあったベンチに腰を下ろし、バッグからスマホを出して謙也に連絡を入れた。今謙也の声聞いたら泣いてしまうかもしれんからメールで。今居る場所を教えて、ついでにあたしの下着と靴も持ってきてと頼んだ。間もなくしてスマホのディスプレイが光る。謙也から電話や、下着と靴も持ってきてって書いたし不思議に思ったんやろか。とりあえず電話に出ることにした。


「もしもし…」
「なまえ!!今どこおんねん!?」
「怒鳴らんといてよ、場所なら連絡したやん」
「ええから言え!!」
「…四天宝寺中の近く、ベンチに座っとる」
「そこ動くなよ、すぐ行くから待っとれ!!」


そう言って謙也は電話を切った。少し経つと、謙也の車が見えた。早いな、向かってる途中で電話してたんやろなぁ。危なっかしいから運転中の電話はあかんてあれほど言うたんに。まぁ一緒に住んどる家から中学まであんま距離ないしなぁ、そりゃ早く着くか。そんなことを思っとるうちに、目の前に車が止まってドアが開く音が聞こえた。あたしのトラウマになりつつある状況と似てて少し身体が強張ったけど、車から出てきたのが謙也やったからほんま安心した。


「なまえ!!」


電話のときみたいに声を荒げてたけど、謙也は優しく、でも力強くあたしを抱き締めてくれた。少し掠れた声で、助けてやれんでごめん、守れなくてごめんって。謝らんといてよ。そのとき、謙也が泣いてるんやと気づいた。


「謙也、泣かんで…」


あたしも謙也の背中に腕を回して抱きしめた。そうすると、謙也の抱きしめる力が強くなった。そこで初めて、あたしも一緒に泣いたんや。



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