お兄ちゃんには内緒やで


今日は午前中でテニス部の練習が終わるというから、久しぶりに謙也とデートの予定を入れた。あたしは自分の部屋で準備したあとにリビングへ降りた。


「あれ?お兄ちゃん早いやん」
「練習終わってすぐ帰ってきたんや」
「ふーん、まぁええわ。ほなあたし出掛けるからまた後でな」
「ちょい待ち」


ガシッとお兄ちゃんに腕を掴まれた。なんとなーく聞かれることはわかるけど、早よ行かなアカンし無視や無視。


「なまえちゃん、そないに粧し込んでどこ行くん?」


やっぱな。今日はいつもより化粧も服も気合い入れとるし聞かれると思ったわ。友達と出掛けるときとは少し雰囲気変えたし。


「ちょっと買い物行くだけや」
「誰とや」
「謙也」
「お兄ちゃんも行く」
「やだ」
「行く」
「アカン」


バチバチと二人の間に火花でも飛んでるかのような睨み合いが続く。


「もう!ええ加減にせぇや!」
「二人きりとか危ないやん!ヘタレかて男や!男は狼さんやねん!」
「狼さんってなんやねん!お兄ちゃんキモイ…」
「ちょ、なまえに言われるとほんま傷付くからやめて」


よっしゃ!今のうちや!あたしはリビングを飛び出し、急いで玄関へ向かいお気に入りのヒールを履いて外に出た。


「だいぶ落ち込んどったし追っかけては来んやろ…」


してやったりな感情のまま謙也との待ち合わせ場所へ向かう。待つのが嫌いな謙也やけど、しょうもない喧嘩のせいで二十分くらい遅れてまうから謝りの連絡は一応入れといた。


待ち合わせ場所へ着いたら、もちろん謙也が先におった。姿を確認して小走りで謙也の元へ行く。あー、ほんまごめんやわ。


「謙也!」
「おー、なまえ!待っとったで!」
「ほんま遅なってごめんね!出かける前にちょっとお兄ちゃんと喧嘩してもうてん」
「想像通りやな」
「ランチ奢るから堪忍してや」
「気にしてへんし大丈夫や。ほな行こか」


手を差し伸べてくれる謙也。ヘタレのくせに、そういうさりげないかっこええ仕草をしてくれるもんやから毎回ドキドキする。少し照れるけど手を握って歩き出す。ちゃっかり恋人繋ぎっちゅーやつやで。恥ずっ。


「いつも思うけど、謙也って身長も手もおっきいねんな」
「なまえがちっこいんとちゃう?」
「う…、確かにお兄ちゃんとお姉ちゃんと比べるとかなりちっこいかも…」
「姉ちゃんも背高いんか?」
「うん、綺麗やしモデルみたいやで!怒ると怖いけどな。あたし達下っ端は頭上がらへんで」
「ははっ、いっぺん会うてみたいわー」
「会わんでええかもよー。てかあたしも謙也の弟にも会うてみたいわ」
「おう、今度会わしたるわ。最近生意気やけどな」


お互いの兄弟話しで盛り上がってたら、もう目的地に到着しとった。


折角のショッピングモールやし、ランチのあと買い物したいからと色々な店を回ったりしてもうて、今日はあたしの買い物に謙也を付き合わせた感じになってしもうた。でも謙也も楽しんでくれとるようやし、まぁええかと自己解決。


「あたしの買い物ばっかりに付き合わせとるし、次は謙也の行きたいとこ行こうや」
「いや、俺は今日ええねん。なまえの好きなとこ行き」
「でも欲しい物とか買うたしもう満足やで」
「ほんま?そんじゃこの後どないする?」
「うーん、どないしよか…」
「なまえさえよかったら…、うち来うへん…?」
「え?せやかてええの…?家族も休みやろ?」
「おかん以外は出掛けとんねん。おかんいてもええなら来てほしいんやけど…」
「行く、絶対行く!楽しみ!」
「よっしゃ、じゃあ俺んち向かうで!」


はじめてや、謙也んち行くん。謙也のママおる言うとったし、なんやめっちゃ緊張するわ…。


「ここやで。ただいまー、おかんおるー?」
「おじゃましまーす」
「おかーん?あれ?返事ないな…」
「なぁ謙也、車一台もないで?」
「ちゅーことは出掛けとるんか…。え、ふ、二人きりやんけ!」
「ちゅーことになるなぁ…」


アカン、いきなり彼氏んちで二人きりってドキドキするやん。なんや変な妄想してまうやろ。落ち着けあたし。


「二人きりでもええ…?」
「あたしはええけど…」
「じゃあ入ろか。俺の部屋二階やから」


階段を登り、謙也に自分の部屋を案内された。え、待って。承認したけどいきなり彼氏の部屋とか…!そ、そういうことになるんやろか?え、どうなんやろ。アカン、変な汗出てきたわ。いらん妄想しとる場合ちゃうで。


「飲み物烏龍茶しかなかったけどええ?」
「う、うん。なんでもええよありがと」


飲み物をテーブルに置き、あたしの隣に謙也も腰をかけた。部屋も広いしこのソファーふかふかや。謙也のパパは医者やし金持ちなんやろか。あたしも将来は医院長夫人…、っていらん妄想しとる場合ちゃうって。本日二回目やわ。


「なんやめっちゃドキドキすんねんけど…」
「俺もや…」
「最近お兄ちゃんに邪魔されてばっかりでなかなか二人になれなかったやん?それに久しぶりの二人きりの空間が彼氏の部屋って尚更ドキドキするわ。謙也にギューってしても誰も邪魔してこんし」


そう言ってあたしは緊張を誤魔化すように謙也の腕に抱きついた。


「なまえ、あんまかわええこと言わんといて。我慢できんくなる…」
「な、そ、そういうつもりで言ったんちゃうで!?純粋にそう思ったわけで…」
「それがアカン言うてんねん」


その瞬間、謙也にソファーに押し倒された。謙也の熱を帯びた視線から、あたしは目を逸らせなかった。


「なぁなまえ…、俺そろそろ我慢の限界やねん」
「え、ちょ、ちょっと待って謙也…!」
「待てへん」
「あたし今日女の子の日やねん!」
「へ?」


あたしから少し離れる謙也。少し驚いたような表情をしたと思ったら、顔を真っ赤にしてベッドに置いてあったクッションにうな垂れるように顔を埋めとった。


「…はずっ!!」
「け、謙也…」
「俺だけ焦って無理矢理襲おうとして…。ほんまごめん!!」
「別に無理矢理やなんて思っとらんよ?それに、女の子の日やなかったら謙也とそうしたかったし…」
「なまえ…、好きやっ!」
「ぎゃっ!!」


ガバッと思いっきり抱きつかれ、ものっそ色気のない声を出してしもうた。それでもお構いなしにあたしを抱き締める謙也の力が強くなってくる。


「け、謙也…、そろそろ苦しい…」
「あっ、堪忍ななまえ!でも自分があないなこと言うからやで。ほんまめっちゃ可愛い」
「そんな単刀直入に言われると恥ずい!」
「せやかてほんまやし…」
「もう!謙也かてヘタレのくせにかっこよすぎやで!」
「なまえ…!」
「ぎゃあ!」


本日色気のない悲鳴二回目や。また飛びつくように抱きついてきよったから。苦しいからそれを伝えると、少し抱き締める力が緩くなったが状況は変わらん。でもお兄ちゃんに邪魔されんでイチャイチャ出来るんは久しぶりやし、しばらくこのままでおりたいと思ったあたしも彼にメロメロやで。


今日の出来事は、お兄ちゃんには内緒や。


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