今日って雨だったの?傘ないよ!ちゃんと天気予報見てくればよかった…。
「なまえ、ちょうどよかった」
「オサムちゃん」
傘ないしどうやって帰ろうかなぁ、って考えてたときにオサムちゃんに声を掛けられた。なぜかオサムちゃんにはあたしの白石くんへの気持ちが最初からバレバレで、時々恋の相談を聞いてもらってるうちに仲良くなったんだ。
「これ練習試合の日程表」
「日程表?なんであたしに渡すの?」
「今テニス部の部室に白石おるで」
「え?…とゆうことは?」
「おまえに持ってってほしいっちゅーことや」
え、うそ!オサムちゃん最高!!
「でも待って、二人きりとか緊張しちゃうよ絶対」
「大丈夫やって、白石のハート鷲掴みにして来いや」
「オサムちゃん…!ありがとう!」
「それと、いくら誰も来んからってやらしいことはしたらあかんで?一応ここ学校やからな」
「し、しないよそんなこと!…よしっ、とりあえず行ってくるね。ありがとうオサムちゃん!」
「がんばりや〜」
雨が降ってるけど、傘もないけど、とにかく夢中でテニス部の部室まで走った。早く白石くんに会いたくて。ただ頼まれたものを渡すだけなのに。部室に着いて、扉を開ける前にニヤついてるであろう顔を真顔に戻した。白石くんのことを考えるとニヤついちゃう癖直したい…。いや本当に。
「白石くん、おじゃましまーす…」
「みょうじさん?どないしたん」
オサムちゃんから預かったよと、頼まれてたものを渡した。おおきにって笑顔で受け取ってくれた。もうそれだけで幸せ!あ、ニヤつく。危ない危ない。
「し、白石くん!部活お休みになったのになにしてたの?」
「んー?次の練習試合の組み合わせ考えとった」
「そういうのも考えたりするんだね」
「たまにやけどな。オサムちゃんに任せっきりも悪いし」
「そうなんだね、偉いね、白石くん」
「そうでもないで?小石川に手伝ってもらうこともあるし」
「そうなんだね…」
またそうなんだねって言っちゃった。やばい、会話が続かない。いつもはこうじゃないのに。白石くんの目を見て話せないよ。これも二人きりだから?あたし今すごく緊張してる。
「みょうじさん」
「へっ?」
「傘持ってへんのやろ?」
「う、うん、雨降ること知らなくて忘れてきちゃったんだ」
「よかったら送ってったるで?」
「え、いいの?」
「女の子をびしょ濡れで帰すわけにはいかんやろ」
「そうかな…」
「もう終わりにするから帰ろうか」
そう言うと白石くんは帰り支度を始め、傘を取り出し開いた。あたしが少し戸惑っていると、おいで、って手招きしてくれたの。ああもうその仕草も素敵。
「相合傘って初めてする…」
「俺も家族以外とはしたことないで」
「そうなの?白石くんかっこいいしモテるだろうから他の女の人ともしてるのかなって思っちゃってたよ…」
白石くんが急に立ち止まったから、自然とあたしも立ち止まる。どうしたのと思い白石くんを見ると、白石くんもあたしの方を見た。とても憂いを帯びた顔をしていて見惚れてしまった。たった数秒間のことなのにとても長く見つめ合った気がした。
「みょうじさんやから、誘ったんやで?他の子となら相合傘なんてせんかったやろうな」
「え?それってどういう…」
「みょうじさんちってこの辺なん?」
「あっ、うん、そこのマンションだよ」
どういう意味なの?あたしだから誘ったって、それ少しは期待してもいいの?って聞きたかったけど、白石くんに言葉の続きを遮られてしまった。
「でかいマンションやな」
「大したことないよ。じゃそこが入り口だからもう行くね。送ってくれてありがとう!」
傘から出ようとしたら、白石くんに腕を掴まれた。
「また今度、一緒に帰ろうな、みょうじさん」
「うん!もちろんだよ!」
そう言うと腕を解かれ、はなまた明日学校でなって。白石くんは振り向くことなく帰って行った。この日は言うまでもなく、ずっとドキドキしてて夜も寝付けなかった。次の日、あたしは寝不足のまま学校へと向かっていった。