ああああもう何なんだ。本気でやってんのあの馬鹿は。結局精市は「真田が呼んでるから行くね」とか言って弦米の所に行ってしまうし。ちなみに弦米と言うのはこの前仁王とブン太と一緒に考えた真田のあだ名である。誤字ではない。本人に言った仁王は頭にトリプルアイスクリームを乗せて帰ってきた。
さっきの精市キス魔事件があってから、私は全てを放り出す勢いで部室に逃げ込んだ。今私が自宅に居たらお気に入りのクッションに顔を埋めてベッドにダイブするところだ。だが生憎部室にそんな物は無い。あったところで赤也とかが昼寝用に使って精市に血祭りにされるだけだからな。
赤也?そうだ、赤也だ!この傷付いた私のセンシティブハートを癒すのは男テニの天使、赤也しかいない。男テニの天使と言うのは私が勝手に言っているだけだけど。いやしかし、だ。あいつ確かブン太だか仁王だかと試合をしていたような。流石に試合中引っ張りだす訳にゃいかねぇな、いかねぇよ。あれ、この物真似地味にハマったぞどうしよう。


「先輩?何やってんスかそんなところで」


ああ、幻聴が聞こえる。可愛らしい森久保あっ間違った、そう、赤也ボイスが。


「おーい先輩?」


そう言って赤也は私の顔をのぞき込んできた。天使だ、まじ天使。私のHPはそこで全回復した。


「生きてますかせんぱーい」

…………うん?


「本物かお前!」
「え!?本物!?何がっスか!?」
「お前本物の赤也か!」
「先輩はこの短時間で俺のドッペルゲンガーにでもあったんスか!?」
「会いたかったぞこの野郎!」


嬉しさ余って赤也に抱きついて頭をぐりぐりしてやった。身長差って、辛いね。なんで頭撫でるだけで精いっぱい背伸びしなきゃいけないんだ。しかも中2だぞこいつは。まだ。男女の差か。赤也だから許す。何やら赤也の顔が赤いようだが気にしない。ああ、今なら死んでもいい。


「ちょ、何するんスか!!」
「いやーごめん。この私の傷ついたハートを癒すのはお前しかいないんだ」
「傷ついたってなんかあったんスか?」
「聞かないでくれ。というか赤也どうしてここにいるの?」
「いや、タオルを忘れたんで」
「ああ、ちょっと待ってね。癒してくれたお礼に私が取ってあげる」
「何もしてませんけどね、俺」


お前がいるだけで癒されるんだ。言わないけど。


「あぁ、先輩がいるなら丁度いいや。プレゼントしたいモンがあるんスよ」


おっとこれは。なんだ、今日は随分プレゼントが多い。儀式ですか?何かの儀式?私を生け贄にするつもりですか?私何かしましたか。分からないけどごめんなさい。生け贄の件はぶっちゃけどうでもよくて、赤也からのプレゼントにちょっと期待しながら棚からタオルを取った。


「あ、あったあった!はい、これ」
「何コレ?」
「今週の日曜、部活休みっすよね?」
「ああ、うん」
「映画見に行きましょうよ!」
「映画?」
「そう、映画!『ものすごく×××くて ありえないほど×い』」
「チョイスがすごいな。そして伏せ字にする部分がおかしいからなんかイケない映画の題名みたいだ」


つかどうしてそれを選んだ。アメリカ映画か。斜め上をいった。


「あー、でも私感動系弱いけど」
「大丈夫っス!俺も強いっすから!」
「もじゃねぇし」
「藻ッスか?」


こいつ精市の後を継ぐだけあってだんだん似てきたぞ。(話噛み合わないあたりが)精市、私の天使を第二の魔王にするな。そんなのあたしが許さない!これは魔法少女か。


「取り敢えず、行けますか?」
「まぁ予定ないし」
「じゃあ決まりッス!時間とかは部活終わってからで!それじゃあ!」
「頑張れー」

チョイスが気になるが楽しみだし良しとしよう。




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