!腐向け(?)表現あり注意

つう、と一筋の汗が背中を流れた。顔面蒼白。文字通り、私の顔は今、真っ青だろう。冷や汗が止まらない。私の荒い呼吸音以外、何も聞こえない。いや、放課後なのだから部活で声出しはしているのだろうが、そんなものが耳に入る余裕は全くない。呼吸音と、目の前にいるクラスメート、高尾和成の声以外は。ホームルームが終わり、皆が各々部活へ向かったり帰宅していく。私もその一人で、さっさと用意を済まし、人の波が出来る前に学校を出た。が、しかし、このとき私は全く気付いてなかったのだ。誰にも知られてはならない“モノ”を机の中に置いてきてしまったことを。恐らく気付いたのは家に帰ってすぐだ。いつものようにそれを鞄から取り出そうと漁ってみても目的の物は見つからない。忘れた、という結論に至るまでの時間はそう長くはなかった。幸いなことに家から学校までの距離は短いので、このなまった体に鞭を打ち、生まれて初めて本気とやらを出して教室まで走って行った。
誰もいないことを想定していた私が愚かだったと、教室を覗いた瞬間に思った。

「……よお」

なぜ、どうして、おかしい、だって、え。疑問の言葉が脳裏に浮かび上がる。そしてすぐ消えていく。一番前の、教卓に一番近い私の机には彼が座っていて、その手には。

「た、かお……」

冷や汗なのか走ったせいで出た汗なのか、分からない。ただ、焦りとも違う、絶望とも違う、何と言ったらいいのか分からない感情が私を支配している。

「いやー、なんか今日は俺ら部活ないらしくてさ。家に帰ろうとも思ったけど鍵は生憎妹が持っててあいつが帰ってこないと俺家入れなくて」

聞いてもいないのに勝手に話し始める。聞かずに目的の物だけ取りに行こうとも考えたが足が動かない。

「んで、体育館にいるわけにもいかねーし教室に戻ってきたんだけどよ」

辻褄は合った、けれど、そんなことどうでもいい。この、目の前の男が持っているそれ。否、開いているノート。「日本史」と書かれたノート。絶対に、親にも見られたくなかったそのノートは。

「なんか、千町さんの机の中にノートが入ってたから」

普通他人のノートを開くか、覗くか、ありえない、なんだこの男は。その前にノートを机の中に入れっぱなしのやつなんて私以外にもいるだろ。なぜ私の机の中だけそんなことを。デリカシーのデの字もありゃあしない。そんな突っ込みがぱっと浮かんだが口に出すことはしない。高尾が部活が無かろうが家に入れなかろうが、私には関係ない。全く無関係。それよりも、何度も言っているが、その開いてあるノートが問題なのだ。

「忘れ物とか思って、興味本位でノートめくってたんだけどさ」
「っ」

適当にぱらぱらとノートを開き、適当にとめたそのページを私に見せる。一番、そのノートの中で見られたらこれからの高校生活真っ暗になりかねない、絵、を。

「これ、俺と真ちゃんっしょ」

いやああああやめてええええええ、と心の中で叫ぶ。そう、だって、それは、その、彼の言っている通り、高尾和成と、緑間真太郎が、か、絡み合ってる、絵、だ。よかった、色は塗っていない。肌色はない。とか、そんなどーでもいいことを考えたが一瞬で消える。

「いや、まじで一瞬ノート落としかけたんだけどさ」

どうせなら落としてそのまま記憶ぶっ飛んで帰って欲しかった。

「なんつーか、意外? 千町さんもそういうことに興味あるんだーとか思ったり?」

ええあります、ありますよ。異性じゃなくて同性だけど。

「まあ俺と真ちゃん、ってのがよく分かんないんだけど」

分かるならもうとっくに私達友達です腐レンドです。

「俺が上だっただけましとか思ったり」

基準が分からない。

「……え、ちょ、何か喋ってよ。俺が変な人みたいじゃ、」
「すいませんそれ返してくださいってか返せそしてすぐ忘れろ迅速に帰れ光速で忘れて神速で帰れ」
「ぎょえっ!?」

言葉のマシンガンに変な声を出して驚くこの男を気にしている暇はない。正気に戻った私はさっさと中に入り高尾が持っていたノートを掴もうとした。が。

「……何の、つもり」

ノートを持っていなかった方の手でぱし、と音を立てて手首を掴まれ、そのまま引き寄せられる。

「ね、千町さん、ここに描いてある行為とかキョーミあんの?」

鼻と鼻がくっつきそうなくらいの距離。近過ぎて顔の焦点が合わない。ぼやけている。ただ目の前の男が薄く笑っているのだけは分かった。一瞬視線が泳いだ後、下へ逸らす。

「それは肯定として受け取っていいの?」
「……勝手にすれば」
「じゃ勝手にする」

瞬間、視界が暗くなるのと同時に、なにかふにふにとしたものが唇にあてられた。


「ってところで起きたんだけどさ」
「なにその無駄にリアリティのある夢。まじ怖え」
「怖いのはお前の方だ。ただの変人になってんだろ高尾おい」
「いや、それ夢の話だから」
「そうだけど」
「あと透子が腐女子とかもう常識だから誰も驚きゃしねえよ」
「っるっさいわボケ」
「あ、それともなに? 俺にそーゆーことされてみたいとか思っちゃってたり?」
「…………」
「……え、ちょ、何で黙ん」
「あ、ごめん、そこに浮いてる埃見てた。で、え、今何か言った?」
「…いや」

20121024
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