×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -


04:刃心




里の出入り口。


一足先に荷物をまとめ終えたセッカは、そこで第七班のメンバーが揃うのを待っていた。
ナルト達は自分同様、各自荷物をまとめに家へ一時帰宅。カカシも必要最低限の物を取りに自宅へ戻った。
依頼主のタズナは酒がなくなったとかで酒屋に寄ってから来るらしい。


「…」


セッカは手に持っている一枚の黒い紙を眺めた。
その頬を冷たい風が撫でる。かさかさと枯れた木の葉が地面を擦る音が虚しく響く。
まるで思考を冷徹にさせるのを手助けするかのようで、セッカはそれに誘われて瞑目した。

あの後…流れで結局タズナの護衛任務を引き受ける事になり火影に話があると言われた後。
他の皆、特にカカシに気づかれないよう一旦全員と解散してから火影室に赴いた。
そこで、この黒い紙を渡されたのだ。


あの時の火影との会話が、蘇る。








「これ」


思った以上に冷めた声が出てしまった。
手にあるのは、一枚の黒い紙。


「暗部の任務だけど」


黒の紙は特殊部隊…暗部の任務の証。この護衛は正規部隊でのCランクだった筈だ。
一応目の前の相手に尋ねるが、自分の頭の中では大凡(おおよそ)の考えはまとまっていた。
この印が押されているということは、暗部として出動しろという意味なのだから。


「護衛任務、しなくていいの?」
「…勿論護衛のほうも頼む。だがそちらもお主に頼みたい」


紙きれに書かれた文面に目を走らせた。
そこには護衛任務とは全く違った内容が。


「ガトー…裏商売してる噂がある商人ね。最近波の国に出入りしてるとは耳にした事あるけど」
「そうじゃ。波の国に行くついでにそやつを調べて来い…背後で蠢く影がある」
「忍?」
「まだ分からん…が、その存在がそやつの荒稼ぎが酷くなった時期と重なる」
「…それが忍が原因なら?」


問いに火影は眉を寄せて俯いた。
この老人が殺生を好む性格ではない事は里の忍はおろか一般人も承知のこと。
そんな相手がこのような顔をする、そして暗部の任務として処理をしたという事は…おそらくそういう事なのだろう。
すると火影が重々しく口を開いてくれた。


「波の国の政情についてはここ一年良い噂がない。原因が忍の仕業で、火の国にも影響が出るようなら…」
「ガトー共々全員殺せばいいのね」
「…お主にばかりこのような任務を回してすまん」
「謝る必要ない」


申し訳なさそうな顔で呟く火影に言う。
紙きれをもう一度見下ろし、それを懐へと仕舞った。


「こういう任務は私へ一番に回してと言ったのは他でもない私自身」
「…」
「それにこっちのほうが性に合ってるもの」
「お主の腕は認めておる…だがよいか、暗殺はあくまで最終手段じゃ」
「…」
「それを忘れるな」


今まで何回も言われてきた言葉。
人を殺めずに済む事態ならそれが一番だと。生かして繋がる先もあると。

…この人は本当に人に甘い。
どこまでも甘く、お人よしなのだ。
その思想があるからこそ多くの里の民に好かれ、長く慕われてきたのは知ってる。


「…忍の世界は死と隣り合わせ」


だけど毎度口癖のように、こう返す。



「殺らなければ殺られるわ」











セッカは突如立ち上がり懐に紙を仕舞った。
そして口を開く。


「何故そこに?」
「ここが集合場所なんだから居るのは当然でしょ」


後ろから返ってきた返事。
この声、この呑気な口調は…間違いなくカカシだ。


「こちらが言いたいのは何故後ろに居るのかって事です」


振り返り放つ声はいつもより僅かに低かった。
それにカカシは首を捻る。


「ぴりぴりしてるネ」
「…」
「どうかした?」
「…」
「今隠したものが原因?」
「…」
「暗部の任務依頼受けたんでしょ」


自分の質問に答えず一方的に喋るカカシに無言を徹した。
だけど最後の言葉に少しだけセッカのそんな態度が変化した。


「ごめんネ。黒紙が一瞬見えちゃったから」
「…」
「内容までは流石に見てないから安心してよ」


カカシは苦笑する。
隠せたつもりだったのだろうが、ここに来た時相手の死角から黒い紙が一瞬見えた。
暗部に在籍していた自分には覚えがあるそれは、暗部専用の任務依頼で使用される紙。


「もしかしてこれから向かう波の国で何か頼まれた?」
「答える義務はありません」
「あのネ、一応火影様にお前のサポート役頼まれてんのよ俺。ある程度は把握しとかないと困るでしょ」
「協力は結構だと以前言いました」


それでもセッカの雰囲気は冷めた印象を漂わせ、いつも以上に拒絶を露わにさせていた。
疲れたように肩を竦めるカカシ。


「本当無愛想だネ」
「…元々の性格です」
「でも昔はもっと表情豊かだったんでしょ?ま、そんな顔隠してたら表情も何もないけど」


その言葉にセッカはぴたと動きを止めた。
怪訝な表情で相手を見やる。


「誰から聞いたんですかその話」
「俺の情報力をナメないで欲しいネ」
「…、火影様ですか」


よくよく考えれば自分の幼少時代を知っているのはあの人くらいだ。
余計な事を何故この男に話したのだと更に顔を顰める。
暴かれたくない過去を第三者から告げられるのは良い気分ではなかった。


「ナルト達みたいにもっと子どもらしく感情を顔に出しなさいって。そのほうが周りに親しまれやすいよ」
「…必要ありません」
「どうして」
「親しくされたくないからです。感情なんて敵に付け込む隙を与えるだけ、碌な事がありません」
「…」
「忍は心に刃を突き刺し、心を殺して任務に徹する者」


狭い視界を地面へと向けた。
己の二の腕を、もう一方の手できゅ、と掴む。



「それが忍の在り方。余計な感情は災いを招きます」



まるで経験者が語るような口ぶりで、そう続けた。
一瞬隠れたその顔に一層暗い陰を落としたかと思えば、すぐに顔を上げる。