×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -


02:猫難の相





里の中、木々が深く生い茂る広大な森。


ガサ…


その中で微かに揺れる草陰。気配を消し近くの木陰に隠れる下忍達。
草陰に身を潜める“相手”は、まだそれに気が付いていない様子だ。


「目標との距離は?」


その場にいないカカシが無線機を使って状況を確認する。
すると電波の雑音が生じる中でも応答があった。


「五メートル!いつでもいけるってばよ!」
「俺もいいぜ」
「私も」
「…」


最後の者は雑音に負けたのか、返事が聞き取れなかった。
だけど各々の無線機は起動したまま。聞こえないわけはないと思う。
そうしてカカシは口を開いた。


「よし!やれ」


その合図をきっかけに…


「ぅりゃああ!!」
バッ


ナルトを先頭に、下忍達は草陰へと飛び掛った。


ガッ
「つっかまえたーーーッ!!」
「ニャーーー!!」



ナルトの雄叫びと相手の鳴き声が重なる。
そして見事捕まえることが出来た相手は、猫。
見事な縦縞をその毛皮に持ち、真っ赤なリボンを片耳につけている。


「いていて…いてってばァ!!」


突然のことに驚いたのか、はたまたナルトの抱き方が乱暴なのか。
威嚇も兼ねて容赦無く爪でナルトの顔を引っ掻く猫。ナルトの顔に赤い筋がいくつも出来る。
その光景が可笑しくて笑うサクラ。一方サスケは無線機を取り出しカカシに指示を仰ぐ。


「右耳にリボン…目標の“トラ”に間違いないか?」
「ターゲットに間違いない」
「よし、迷子ペット“トラ”捕獲任務終了!俺もそっちへ行くから、それまでしっかり捕まえてなさいネ」
「あぁ」


無線の電源を切る。
無線越しの相手がここに来るまで五分もかからないだろう。
後はこの猫を依頼主の元へと届ければ任務は完全に終了だ。

だがふと、サスケは気付く。


「?あいつどこ行った」
「サスケ君あいつって?」
「セッカだ」


漸く笑いが落ち着いたサクラ。
サスケの言葉にそういえばと一人見当たらない事に気づいた。猫を捕まえる為に近くにいた筈なのに。
一体どこにいるのかときょろきょろ周囲を見渡す。
ナルトもそこでやっとセッカがいない事を知った。


「いててっ…本当だってばよ。あいつどこ行ったんだってば?」
「…ここにいる」


控え目な声量の声が真上からした。
見上げれば、木の枝に腰掛けて自分達を見下ろしているセッカの姿。
今日も変わらずその凄然とした態度は健在だ。


「お前そこで何やってんだってばよ!?」
「寝てた」
「はァああああ!?お前何呑気にサボってんだってば!早くこいつおとなしくさせンの手伝えー!!」


小さく欠伸を零しながらのセッカの発言に、暴れる猫と格闘するナルトは叫んだ。
その顔は最早引っかかれ過ぎて真っ赤となりつつある。
それでもセッカは動く気配がなかった。
まるで眼下の光景を画面を隔てた別世界とでもいうような雰囲気で見ている。


「…そこまで暴れるのはお前の抱き方が悪いと思う」
「だったらお前が代われってば!」
「断る」
「〜〜〜っ!」


抱き方に問題があると言われ、見本を見せろと言えば答えは否。
あまりの身勝手な言動にとうとう額に青筋を浮かべ始めたナルト。
堪忍袋の緒が切れるまであと一声二声といったところだ。


「マタタビとかどこかにあればいいんだけど」


不毛なやり取りをする二人を余所にサクラが暴れ続ける猫を見て呟いた。
猫はマタタビに弱いと聞く。与えれば大人しくなると思うが、辺りの森には雑草ばかりだ。


「そんなもんこの辺にあるかよ」
「そうよねー…ここまで暴れる猫なら買ってくれば良かった」
「…あるけどマタタビ」


サスケの正論にサクラは頬に手を当てため息をついた。
が、そこでセッカから驚きの一言が。
見るといつも着ている黒い外套から小さな袋を取り出していた。


「まさかセッカ君買って来てたの?」
「違う。前から粉末にして持ってた」
「じゃあもっと早く出せってーの!この莫迦猫にぶっかけて大人しくさせっから早く寄越せってば!」
「断る。これは薬になるから持ってるだけ」


ナルトの訴えをまたしても拒否。
セッカは袋を取り出した箇所に再び仕舞う。


「お前達にあげる為に持ってる訳じゃない」
「…」


直後、ナルトは頭の中で何かが切れた音が聞こえた気がした。
ナルトのその雰囲気を感じ取り、近くにいたサクラが「あ」と声を漏らしサスケが疲れたように息をついた。


「おい莫迦猫」


先程とは打って変わり静かな怒りで、未だに爪を立てて暴れる猫に視線を落とす。
その態度が気に入らないのか更に威嚇混じりの鳴き声を発する猫だが…


「あいつってばお前の好物のマタタビ持ってるらしいってばよ」
「ニャ!?」


ぼそりと教えられた内容にぴくっと反応した。
流石これまで巧みに逃げ回っていた猫だけある。
学習能力があるようでその視線がぎらぎらとセッカを見ている。


「欲しいかってば?」
「ニャニャ!」
「…」


一人と一匹が話し合う。
そんな奇妙な光景にセッカはどことなく嫌な予感がした。