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02:絡まる想い



正午の昼休み。
セッカは学校内にある中庭の並木通りが一望できる高い木の上にいた。
さわさわと、木の葉同士が風によって微かに擦れる音が耳を擽る。
そんな中で背を幹に預け、紙に何かを認(したた)めていた。そして少しして筆を上げる。
どうやら完成したようだ。紙を綺麗にたたみ、しっかりと折り目をつける。


ピィ


その時鳴き声が頭上から聞こえた。
上を仰ぐ。と、数段上の枝に一羽の小鳥がいた。
セッカを見下ろし、軽快な足取りで枝を行ったり来たりしている。
おいでと小さく言えば羽をはばたかせ自分の元へと飛んで来て、曲げていた膝にちょこんと止まった。
つぶらな瞳がこちらをじいっと見つめてくる。


「頼み事、いい?」


訊けば、短く鳴いた。
返事の内容に頬を人差し指で撫でてあげる。


「ありがとう。この紙を火影様に届けて」


先程の紙を目の前に見せる。
またしても短く声を発した小鳥の足へ紙を緩めに結わえた。


「お願いね。終わったらここに戻らなくていい…また好きな場所へお行き」


そう告げて青空へ放ってやる。
その勢いを借り、小鳥は里の中心街のほうへ真っ直ぐ飛んでいった。
小さくなっていくその姿を見送ったセッカ、次にこの後どうしようかと考える。

昼食は済ませた。だけどまだ休憩が終わるまでには時間に余裕がある。
きっと教室は人が多い。


「…」


あの入り乱れるざわめきを思い出し、軽く腕をさする。
枝に腰を下ろしたまま足を投げ出して目の前の景色を暫く眺めた。
緑豊かな里の情景。その上にある青空では上昇気流に乗って数羽の鳥が飛んでいて。


「平和、か」


争い事も少なく肥えた大地のある木の葉の里。
春には花が咲き、夏には青葉が茂り、秋には葉が色付き、冬には雪が舞う。
季節の移ろいも感じられるこの里は、今他に既存しているどの忍里よりも豊かな環境なのだろう。

そんな里の情勢を一人静かに思っていれば、風に乗ってふいに人の気配を感じた。
導かれるように視線を下の方に向けると、見覚えのある桃色の髪。


(…あれは)


そこにはサクラがいた。中庭に備え付けてあるベンチに座っている。
そしてその向かい側には木に凭れ立ち、腕を組んでサクラを見つめるサスケ。いや…正確にはサスケに化けたナルトだ。
どうやら二人はなにやら話をしているよう。
少しずつサスケに化けたナルトがサクラに近づいていく。

セッカはその成り行きを黙って見つめた。
今降りたら二人に見つかってしまう。それは避けたい。
どうしてこうも自分の周りをうろつくのだろうか。

そんな愚痴が頭に浮かぶが、今はこの場の状況を打開したかった。
取り敢えずは二人がいなくなるまで様子を見る事にする。

そうこうしている間にサスケに化けたナルトはサクラの目の前で止まった。
その口元がふ、と笑む。


「お前チャーミングな広いおデコしてんな。思わずキスしたくなるぜ」
「…」


危うく手を滑らせるところだった。
流行など全く以て疎いが、今はこういった口説き方が主流なのだろうか。
表面上の歯の浮くような台詞で、まるで真剣さが窺えない。

だけどサクラは顔を真っ赤にさせた。
サスケの顔だと物事の分別がつかなくなるようだ。
もの凄く期待を込めた眼差しを向けていた。


「…なんて、ナルトならそう言うだろうな」


だけど直後放たれた続きの言葉にがくりと肩を落とす。
サスケに化けたナルトはその隣に静かに腰を下ろした。


「サクラ。お前に一つ訊きたい事がある」
「え?」
「ナルト…どう思う?」


自分の事をどう想っているのか知りたかったナルト。
好きな子相手ともなると尚更その気持ちは高かった。
ナルトの思いなど知らず、サクラはその質問に少しの間黙り込んでから答えた。


「…人の恋路の邪魔者がすっかり板について、私が四苦八苦してるのを楽しんでる」


先程教室で起こった事を思い出す。


「ナルトは私の事なんて何一つ分かってない。うざいだけよ」


毒舌だな、と蚊帳の外であるセッカは思った。
午前の説明が始まる前からそうだが、ナルトに対するサクラの態度はかなり冷たい。
まるで始めから反りが合わないとでもいうようにナルトの行動に対して否定的で。


「…」


まあ、私も彼女の事を言える立場ではないけれど。


「私は唯…サスケ君一人に認めてもらいたいだけ…私、必死だもん」


セッカの存在に気づく事もなく、サクラはサスケに化けたナルトにぐっと詰め寄った。
どれだけ相手を想っているかという気持ちがその雰囲気だけで伝わってくる。


「認めてもらえる為なら何だって出来るよ…好きだから」


サスケ君の事が。


サクラはそっと目を瞑り、その顔を相手へ近づける。
淡く色付いた唇が次第にお互いの距離を狭めていく。
それにサスケに化けたナルトはごくりと喉を鳴らし、セッカも彼女の行動にはっと視線を逸らした。

近頃の子は大胆だ、と手の甲で口元を隠す。
彼女が積極的過ぎるのか、それとも私が疎いだけで今や当たり前の文化と化しているのだろうか。

そんな事を一人考えていると、下の様子ががらりと変わった。
視線を再び下へと落とせばサスケに化けたナルトが腹を抱えている。
そしてサクラが呆然としている中ゆっくり、だけど焦った歩調でどこかへ行ってしまった。


(まさか…腹痛?)


セッカは遠のいていくその姿を見送り、呆れた。
垣間見えた偽りの顔はどこか青褪め、脂汗を浮かべていた。加えて覚束ないあの足取り。
医療の心得はあるが、あんな分かりやすい典型的な症状なら誰でもそうだと判断出来るだろう。

騙す形ではあったが折角の想い人との口付けのチャンス。
それを直前となって腹痛に邪魔されるとは。
やはりあの子は報われない性格だと思う。

まあ、同情などはしないが。