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濡れた恋時雨



ぽたり

ぽたりと



あたしは瓦を伝って零れ落ちるこの雨音が好き


雨が嫌いって女の子はたくさんいる

湿気で髪が上手くまとまらないとか、化粧が上手くのらないとか

お洒落してもずぶ濡れになるとか


だけど、私は好きなの
だって情緒があるじゃない?


まるで音楽を奏でてるようで、心が落ち着くの


そしてもう一つ、好きなもの



「ね、長次」
「…何だ」
「あたし長次の背中、好きだな」



図書室の受付場所で二人寄り添って
瞼を閉じたまま背中のぬくもりを感じる


あたしの声に少しだけ反応してくれる長次
合わせた背中が上下に微かに動いた


あ、今ちょっと動揺してくれたのかな?



「だって長次の背中って大きくて優しくて、あったかいもん」
「…そうか」



大好きな人の背中
その背中に縋れるなんて、あたしって幸せ者だなぁ



「…、なんか眠くなってきちゃった」
「名前…寝てもいい」
「ふふ。ありがとう、長次」



あたしを支えてくれる逞しい背中 何度もあたしの名を呼ぶ長次の優しい声
それに愛しさを覚えて思いっきり甘える



大好き長次
ねぇ、長次はあたしのこと好き?
もしそうなら、ずっと傍にいたいな…いい?



この言葉はまだ勇気を出して言えないけど


でもいつか、きっと言うから



雨が次第に、やんでいく


あたしは静かに眠りにつく













ぽたり
ぽたりと


あたしの好きな音


あれ、また雨が降ってきた?
さっき一回やんだのに…また降り出したのかな?
まぁいいや、雨音に足音も紛れて任務しやすくなるし


何より背中には長次のぬくもりがあって安心できるから


「ねぇ、長次」


いつもと同じように長次の背中に背中を預けたまま、瞼を閉じる



「長次の背中、やっぱりあったかいね」



今すごく寒いからいつも以上にそのぬくもりが欲しい


そう言えば長次の手があたしの手を握り締めてくれる
うわ、こんな事今までしてくれなかったのに
やだ、すっごく嬉しい



あれ、でも…



「長次、手、震えてるよ?」



寒いのかな?
こんなにあったかい背中してるのに
代わりにあたしが温めてあげようとその手を握り返したけど、あたしの手は全然あったかくなくて

長次の手のぬくもりを奪っているような気がする



「ごめんね、長次も寒いよね」



微かに長次の背中が左右に揺れる


違う、と否定している
あれ、寒いから震えてるんじゃなかったの?



「…っ名前」
「ん?」



長次の呼びかけに小首を傾げて問うた

ぽたり、と先程の雨音がまたしても響く




「頼む、死ぬな…っ」




押し殺すような、声
あたしは笑みを浮かべた

ぽたり、と先程の雨音がまたしても響く




「…ごめんね」




雨音の正体はあたしから流れ出る血だ
さっきから全然やんでくれない音だ

大好きな雨音に似てるのに、すごく嫌な音



「ヘマしちゃうなんて、莫迦だよねあたし」



周りに転がる敵の死体

長次と一緒に密書を奪う任務をして
意外にも簡単に奪う事が出来ておかしいな、と思ったその帰りに奇襲に遭った
数が多くてなんとか倒すことができたけど、あたしは腹部を貫かれて

今はもうそこから温かい液体が流れっ放し

くす、と自嘲すればその口端からも温かい液体が出てくる
あぁ、もう限界かも



「ねぇ、長次」



長次の装束を汚しちゃうけど、その背中に寄り添う
溜まらなくそのぬくもりが愛しい



「なんかね、眠くなってきちゃった」
「名前…っ寝るな」
「ごめんね…長次」



あたしを支えてくれる震えた背中 何度もあたしの名を呼ぶ長次の震えた声
それに後ろめたさをを覚えて泣きそうな声でもう一度謝った



れた時雨
血で濡れた、儚い恋




大好きだよ長次
ねぇ、長次はあたしのこと好き?
もしそうなら、ずっと傍にいたいな…いい?



この言葉はまだ勇気を出して言えないけど



でも次の世で逢えたら、絶対言うから



血が次第に、とまっていく

あたしは静かに、眠りについた





長次→←名前な悲恋