#6 役割への信念と陥落(1)
あおーん、という遠吠えにぱっちり目が覚める。
ん……と瞼を擦ると、隣から伝わるかすかな揺れ。
「起きちゃった?」
ああ、と寝起きとは思えない声で答える彼。からだを起こしてみると、闇の中で青白く浮かぶ3:00。
せっかくの日曜日が。
一度起きたら眠れないのが蒔田家の鉄則。
というわけであたしの肩に手をかけて、強引とも思える手つきで胸板に招く彼。
悪くない。
むしろ幸せ。
寸法をはかったかのように、すっぽり彼におさまること。首筋に顔を寄せて感じる匂い。毎日浸れる、あたしだけの特権。
意識を保ったまま噛みしめられる時間が増えたのだから、愛犬に感謝しなきゃならないのかも。顔を埋めながら、にまにまが止まらない。
けれど、彼から伝わるのは苛立ちの気配。右足が細かく揺れるのはその兆候。
「解せねえな」
小さく息を吐いた彼が次になにを言うのか、心の中でちょっと身構えれば、
「お前を起こすのは俺の仕事だ。相手がショコラであっても譲る気はねえ」
「犬に負けたくないって、どんだけよ」
首筋に吸いついた唇を離し、顔と顔を向き合わせると、出迎えたのはしかめっ面。
「頼むから、寝てくれ」
「ふわぁ、い?」あくび交じりで答えれば、
「もう一度寝ろ。10秒でいい。起こす」
笑うなという方が無理だろう。
「何が可笑しい。俺は真面目に言っている」
「わ、わかったわかった。じゃあ、離して」
「離せだと!? お前は一体何を」
「わっ、わかったから、落ち着いて。とにかく寝るね。おやすみ」
「ああ、おやすみ」
まさか彼のおやすみを毎日聞ける日が来るとは思わなかった。どうしてあたしはこんなに幸せなのだろう。
目を閉じる。目を開いても最上級があたしを待っている。
神様、どうかこんな日々がずっと続きますように。
などと闇の中でひとり祈っていれば、
「スー……」
三秒で始まる安らかな寝息。あたしの背中をぴったり押さえていた手のひらが離れる。って、
“自分が寝るのかよっ!”
内心絶叫。瞼を上げると、予想通りの事実が認められた。
「あっきれた」
けど、彼の寝顔はそんな感情をも消しさる、圧倒的な魔力を放つのだ。