#40 おかえり恋情(1)
「変な、感じがするの。いつも」
胸板に額こすりつけながらあたし。頭の後ろを撫でるリズムが気持ちよくて、猫みたいな気分。
甘ったれた。
「住みなれない町の匂いも覚えて、大通りも歩き慣れて、毎朝あの道通っておでかけするって時間の流れも染みついて……旅してること自体が普通になった頃に帰るでしょ?」
だからふと、あれこれ現実? って分かんなくなる。デジャヴに似た、時差ぼけよりも奇妙な感覚。時差ぼけなら時差かける日数経てば治るから。
1600キロメートル離れたところにあんな世界があって。違和感が親しみに変わって馴染んで。
慣れたこと、それが「非・日常」だってことになるんだし。
「ある種のパラダイム・シフトだな」お前にとって、と彼は言う。
「ん」手にあごを乗せてあたし。
旅先に違和感を覚えたとしても、そこに生きるひとにとってはあの場所が毎日を生きる場所。
逆も然り。
同じことを続けるのもすごく大切だけれど、ときには、自分と違った価値観に触れないと、どんどん自分が狭くなってしまう気がする。
だから、違うものに触れたい、とあたしは思う。
「……意味深な発言だな」
「え?」伝わる振動に、触れていた耳を離した。
「いや、なんでもない」
「ん、なによ言ってみてよ」両頬を軽く引っ張ろうとしても上手くは行かない。そもそも薄いから。からかい方が難しいのがこのひとの特徴だ。「気になっちゃうじゃない」
そして頬を軽く摘ままれようが不細工にならないのが癪に障る。
あたしの胸中知らず、不機嫌さを隠すように言う。
「いまの話。帰りたくない日常があるようにも聞こえるぞ?」
思わず、笑った。鼻から息が抜けて。そうすると渋い表情をする。ますます笑ってしまう。「こないだ、あなたが出張で居なかった日、どれだけ寂しがったか知ってる?」首の後ろに手を回す。「あたしもショコラも。なんか、変だね……飼い主の感情って伝染するみたい。ショコラ、あんまりにも寂しくってケージの中で背を向けて丸まってて……ベッドのそばで寝たんだよ。床にぺたーっと」
寝室には入れないようにしている。
「でもね、」
ひとりでなんか、寝れない。