#56 イートザワールド
 こんな美味しいものを誰が発明したのだろう。
「あふっ」
 ぱりぱりのフランスパン。
 最初に作ったひとすごい。
 気をつけてもお皿の上がテーブルがすごいことになってしまう。
 お隣もぱりぱり。
「主な原材料は、小麦粉と水なんだってな。さっき成分表記見てきた」
 あそか。「卵と乳製品使わないんだ」
 お水と小麦のハーモニー。
 ぱりぱり。
 ぱりぱり。
 口、痛くなって来ました。あやっぱり手をつける。ブルーベリーとストロベリーラスベリーで飾ったヨーグルト。爽やかな風味が合うだろう。
 ではあたしはりんごジュースを。
「はーっなんかお腹いっぱいになってきたよ」
「食わねえの?」
 あと三枚残ってる。
「……あなたにお任せします」
 焼き過ぎちゃった。

 ぱりぱり。
 ぽりぽり。

「見てて飽きねえのか」パンくず落としつつ蒔田さん。
「んー?」頬杖ついてあたし。「気持ちのいい食べっぷりだなーっと思って」
「しょーがねえだろ食わねえと」
 お昼少なめにしましょう。
「あ」椅子を引く。「コーヒー淹れてくる。飲むでしょ」
「頼む」
 ショコラ。……ケージから出してあげようかな。
 でもパンの欠片が落ちちゃったら、クセになる。
 またちょーだい! って求めるようになっちゃう。

 人間たちの食べるものは美味しいのだ。

「ふー……」
 ほっと息をする。淹れたての湯気が眼鏡を曇らせる。
「美味しいね」
「あー」
 こちらがコーヒーのことしてる間にテーブル片してくれてた。
 目を伏せ、白の陶器を置く。
 白っぽい肌がちょっと上気してる。
 いちごを食べ終えたショコラが、彼の足元にまとわりつく。
 まだなんかちょうだい? って。
「こんなもん飲んじまったらおまえは熱くて火傷をする。やんねーぞ」
 足で払われる。
 すごすご。
 背を落として、お水を飲みにいく。
 しちゃしちゃ。
 しちゃしちゃ。
「美味しかったね。どこのお店の?」
「一枚しか食ってねえだろ。銀座のデパートって聞いた」
 安田さんからの頂きもの。
 呼んでいただいたうえに貰いものまでしちゃってた。「今度うちに呼ぼうね?」
「……しばらく仕事が忙しいと言ってたな。落ち着いたら呼べとは言ってある」
「『呼ぶ』でしょ」
「言い違えだ。作るのはおまえだ」
「……うん」カップは空だ。「ねえ蒔田さん。そっち行っていい?」
 股を広げて、
 こちらを、見上げる。

 安全性を考慮して、
 カップをだいぶ退かす。
 
 椅子に膝をついて。
 抱きしめてみる。
 額。
 かき分けて、キス。

「おまえ。コーヒーと。パンのにおいがする」
「あなたもだよ」

 屈んで、味わう。
 あなたの味。

「……腹いっぱいと言っただろおまえ」
「それと、これは」

 別腹なのです。



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